1887年(明治20年)創業の老舗菓子メーカー、春華堂。静岡県浜松市に本社を置く同社の代名詞となっているのが、1961年(昭和36年)の発売以来ロングセラーの「うなぎパイ」だ。「夜のお菓子」というユニークなキャッチコピーとともに抜群の知名度を誇り、2023年はうなぎパイだけで売上75億円(前年比1.4億円増)を達成した。だが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。看板商品が強すぎて次のブランドが育たず、長年うなぎパイ以外は赤字を繰り返していたのだ。「売れているのにお金がない!」――強い危機感で2014年から本格化した「うなぎパイ一本足打法」からの脱却。春華堂 4代目 代表取締役社長の山崎貴裕さん、常務取締役の間宮純也さんに聞いた。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
大人気の「うなぎパイ」以外は赤字
生き残りをかけた4代目の挑戦
2001年、家業である春華堂に入社した4代目の山崎貴裕さんは、さまざまな社内プロジェクトの陣頭指揮を執る中で、恐ろしいことに気づいてしまった。「うなぎパイの売上は伸びているのに、借入が消えない。なぜうちはこんなにお金がないんだ?」
どこかに穴があるはずだ。しかし、右肩上がりのうなぎパイが目くらましとなって、社内の多くが、この状況に危機感を持っていなかったという。
ほどなく原因が分かった。当時のうなぎパイの年間売上40億円に対し、それ以外の和洋菓子部門が、年間5億円の赤字を出し続けていたのだ。このままでは会社が危ない。山崎さんは、うなぎパイ・和菓子・洋菓子を“3本の矢”にすることを目指し、和洋菓子の黒字化に乗り出した。