決して「鋼のメンタル」じゃない
鋼のメンタル――3度の倒産危機を乗り越えた瀬川さんを、周囲はこう評する。
「正直言って、今もめちゃくちゃ苦しいです。我慢してるだけですよ。目の前が真っ暗になったこともあるし、客先に向かう途中で、このまま逆方向の電車に乗って逃げようと思ったことだって何度もあります」
そのたびに思いとどまれるのは、幼い頃の「諦め」の経験だった。
「小学校の頃にJリーグができて、プロサッカー選手になりたいと思ったんです。でも、なぜか『自分には無理』と決めつけて、あっさり諦めてしまった。それが自分の中ですごく悔しい思い出として残っています。もうあんなふうに何もしないで諦めて悔しい思いはしたくないんです」
そして、家族の存在。「来年どうなってるか分からへん人生は楽しいで。会社員のときは、3年後、5年後もどうせ同じことしてるって分かりきってたやん。そんな人生はつまらんし、退屈やわ」。何度喧嘩しても、瀬川さんは妻のこの言葉に勇気づけられたという。
顧客からのレビューも心の支えだ。「苦しいときはレビューを見ます。これがやりたくて会社を作ったんだからと、自分が負けないように奮い立たせています」(瀬川さん)
『お腹の赤ちゃんが女の子と分かり、生まれたら着せてあげようと決めて買った服を本当に着せることができました。この子を大切に育てようと心から思いました』
鋼のメンタルの正体。それは、生まれながらの強さでも、心の痛みや追い詰められる恐怖をものともせずにやってのける才能でもない。人を幸せにしたい、人の役に立っている、その答え合わせができたとき、人は少し強くなれるのかもしれない。