中国ではキャッシュレス決済が急速に普及し、多くの国民がAlipayやWeChatPayなどのアプリを駆使している。オフィシャルな統計によれば、キャッシュレス決済は3人に2人が利用しているという。だがその弊害として、幼いころから現金を知らずに育った子どもたちに「お金のリテラシー」が身に付かないという課題が指摘されている。そうした子どもたちによる、ちょっと心配になるような言動の具体例を、中国のIT事情に詳しい著者がリポートする。(中国アジアITライター 山谷剛史)
「お金はスマホの中だよ!財布って何?」
子どもたちが疑問を覚えるワケ
「これはお金じゃない!お金はスマホの中だよ!」「財布って何?何が入っているの?」
中国で現金(100元札)を見た子どもが、本当に親と話したやりとりだ。中国ではAlipay(アリペイ)やWeChatPay(ウィーチャットペイ)といったバーコード決済が早くから普及した結果、現地の子どもが「現金を知らない」ケースが増加。興味深い現象として、各方面でしばしば報じられるようになった。
中国は「無現金社会」と言われて久しい。もちろん現金での支払いに対応している店はあるものの、現金で支払うのはインターネットリテラシーが高くない高齢者か、中国の決済サービスに登録していない外国人観光客くらいになった。働き盛りの日本人が中国の店で現金で支払おうものなら、一見すると中国人と見分けがつかないため、周囲から「この人はなんで現金で払うんだ」とばかりに不思議な顔をされるようになった。
先述したウィーチャットペイは、中国で広く普及しているメッセンジャーアプリのWeChat(ウィーチャット)の決済機能だ。今の中国では、仕事の関係者同士、学校の先生・生徒・保護者、そして同じマンションの住民同士など、公私を問わずさまざまな集団がウィーチャット内でつながり、グループ化されている。グループチャット内での送金も可能なので、なおさら現金を使う場面は減る。
ウィーチャットの保護者グループでは、「今の子どもたちの多くは『物理的なお金』をあまり知らず、特に幼い子は生まれてから現金とほとんど接触していない」と懸念する会話が飛び交っている。子どもに現金のお小遣いをあげたことはあったが、反応は薄かったと親は口々に語る。
中国の子どもが決済で使用するデバイスとしては、スマートフォンだけでなく、子ども向けのスマートウォッチも人気だ。GPSを活用して連れ去りを防止したり、保護者との連絡に気付きやすくなったりといった安全系機能も人気に一役買っているが、やはりキャッシュレス決済用のバーコードを表示する機能にニーズがある。
子どもが買い物をする際、スマートウォッチにバーコードを表示させて店員に読み取ってもらうと、保護者のアカウントから購入代金が引き落とされる仕組みだ。ただし「物理的な紙幣や硬貨」をやりとりするわけではないため、子どもの金銭感覚が薄れる弊害もあるという。