事件が起こった中国江蘇省蘇州市のバス停事件が起こった中国江蘇省蘇州市のバス停=6月25日 Photo:JIJI

6月24日、中国・蘇州にある日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、日本人母子が怪我を負い、犯人を止めようとした中国人女性が亡くなった事件。中国では当初この事件は詳しく報道されなかったが、ネットでは亡くなった女性の名前を明らかにせよという声が高まった。日本の報道では日本人母子の名前は伏せられていたのに、なぜ中国では被害者の名前を知りたいという声が起きたのか。そして、中国で高まる「反日」を超えた「仇日」意識とは……。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

蘇州で日本人学校のスクールバスが襲われた
日本のメディアの報じ方に問題はなかったか

 6月24日に起きた、江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスを待っていた日本人親子が襲撃された事件には驚いた。蘇州という、もともと観光地で日本人も含め外国人には慣れているはずの、また日本企業が多く進出している都市で、そんなことが起きるとは思っていなかったからだ。

 いや、筆者だけではない。襲われた親子と学校関係者も含めた周囲の人たちも、予想もしていなかっただろう。生命の危険に関わる傷ではなかったとのことだが、関係者の精神的不安は高まったはずで、心よりお見舞いの言葉を申し上げたい。

 それにしても、事件の第一報を翌朝のラジオニュースで聞いたわたしはその報道の仕方に疑問を持った。日本人親子2人が襲われたことについて「命に別状はない」としつつ、スクールバスの中国人ガイドが「重体に陥っている」という重大な情報が最後に軽く触れられただけだったからだ。

 慌てて文字メディアを検索したところ、どこも内容はほとんど同じ。襲われたとはいえ生命に別状がなかった日本人親子を気遣う内容がニュースのほとんどを占めており、同じ事件でもっと深刻なケガをした中国人スタッフのことは、どこも軽く触れるだけで済ませていた。

 これは多分、第一報のソースが、現地の日本領事館が日本メディア向けにブリーフィングしたものだったからだろう。しかし、在外日本人の安全確保に責任を負う領事館が「日本人」を中心に発表したからといって、ニュースメディアがそれをただそのまま伝える形を取ったのはいかがなものか。