自分よ、自分。自分が楽しくなくちゃダメよ

 身構えていると、ミレイユは意外にもこう言いました。

自分よ、自分。自分が楽しくなくちゃダメよ。ほら、行くわよ!」

 結局私は資料を放り投げ、ミレイユにそのまま連れ出されてヴェルニサージュに顔を出していました。パリ随一のアート・ギャラリーには既に多くのパリジャン、パリジェンヌが詰めかけていました。すぐに取り巻きに囲まれたミレイユはそのままギャラリーの奥に消えてしまいましたが、私は久しぶりに仕事から離れ、いつもの仮面を取り外し、無名のゲストとしてとても楽しい夕べを過ごすことができたのでした。

残業をすっぱりやめたら得られた「3つの収穫」

 それまで「仕事より自分を優先する」という発想が全くなかった私です。「そんな時間はない」と思っていたのですが、「そんな時間」は作り出せることがわかりました。味をしめた私はそれからというもの、パリのアート・ギャラリー通いを始め、一人さみしく残業するのをすっぱりやめました。すると、3つの収穫がありました

 まずは、残業をやめてさっさと帰るようになったら、仕事が飛躍的にはかどるようになったということ。就業時間が減ることによって仕事のアウトプットが減ったかといえば、全くその逆だったのです。エネルギーの時間配分が上手になり、仕事のメリハリが利くようになりました。効率が上がったのです。

 次に、自分の担当外の案件をため込むことがなくなりました。会社にいる時間を最大限に有効活用するのですから、人のことまで構っていられません。一人芝居をやめても、舞台は幕を閉じることなく、何事もなかったように続いています。「自分がやらないと」と勢い込む必要はなかったのです。

 そして最後に、これは大収穫でしたが、あれほど「しんどい」と思っていた仕事が楽しくなってきました。心に余裕が出来たのです。「自分が楽しい!」そう思うことが出来て初めて、「仕事が楽しい!」と思うことが出来るようになったのです。

 自分を押し殺してまで仕事をする必要はありません。私のように「しんどい」と思っている人がいたら、まずは自分の時間を作ってみることをお勧めします。押し付けの人付き合いの時間ではなく、家族のための時間ですらなく、自分のための時間です。食べ歩きでも、観劇でも、一人カラオケでも、なんでもいいんです。それが見つかったら、思い切って会社より自分を優先させてみてください。

 会社はたくさんの人が一緒に回していますが、自己ケアは自分にしか出来ないことです。自分をないがしろにしていると損するのは、他でもない、あなた自身です。

※本稿は『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。