「僕が新人営業だった頃、ある一流営業マンに憧れていました」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』。ガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、一流営業マンが教えてくれた「売れる人の共通点」について紹介します。
赤いネクタイ、赤いマフラーの「Aさん」
営業を始めて2年目、僕には憧れの存在ができました。ある外資系企業で営業をしているAさんです。
彼との出会いは、友人に誘われて参加したパーティーでした。会場は、綺麗にドレスアップした人ばかりで、地味なスーツを着た僕は、場違いなところに来てしまったと戸惑っていました。
すると、赤いドレスを着た主催者の女性が挨拶に来て、「営業をしているなら、同じ営業のAさんを紹介するわね」と言いました。彼女が指した方向を見ると、一人の男性が颯爽と階段を降りてきました。仕立ての良いネイビーのスーツに、真っ赤なネクタイ。そしてアントニオ猪木さんのような赤いマフラーを首から下げて。
その人が、Aさんでした。
彼が階段を降りてくるなり、たくさんの経営者が駆け寄り、親しく話しかけ始めました。こちらからすり寄らなくても、相手から寄ってきてくれるなんて。僕の「営業像」が見事に壊されました。
今でも記憶に残る、Aさんの振る舞い
衝撃的だったAさんとの出会いでしたが、僕が驚いたのは、その後でした。
Aさんとは後日あらためてランチをご一緒しました。いろいろと質問をしようと意気込んでいましたが、予想外に、僕がAさんからの質問攻めにあってしまったのです。
「クレジットカードの仕組みってどうなってるの?」
「なんでこの店を予約したの? どこで知ったの?」
……などなど。僕が答えると「そうなんだ! 知らなかった」「勉強になるよ」と、Aさんはとても熱心に聞いていました。
別の日には、Aさん行きつけのバーにも連れていってもらいました。するとそこでも、Aさんはマスターに悩み相談をして、教えてもらったことをメモに取っていました。
自分の知識や経験をひけらかすことなく、僕みたいな相手も含め、すべての人から学びを得ようとする。その謙虚な姿勢が、今でも僕の記憶に残っています。
「売れる営業には、二種類いるんだよ」
Aさんに「そんなに売れているのに、どうして謙遜しているんですか?」と聞いたことがあります。するとAさんは、こう言いました。
「営業で売れている人は二種類いるんだよ。まずは圧倒的な知識がある人。次に、圧倒的じゃなくても素直な人だよ。知らないことは知らないって正直に言うと、みんな応援してくれるんだ」
他業界から転職してきたAさんも、はじめはプライドが邪魔をして素直になれなかったそうです。でも自分の弱みを正直に出すようになってから、応援してくれる仲間やお客様が増えたと言っていました。
Aさんだけでなく、活躍している人は多くの人に応援されています。「無知」を知り、自分の弱みを素直に受け止め、誰に対しても「教えてほしい」という姿勢で接するからです。それが周囲に「あの人は謙虚だ」と感じさせ、応援したくさせます。
優秀な人ほど、
「自分は何も知らない」と知っている
誤解や非難を恐れずに言います。人を見下したり、マウントを取ったりするのは、成長を止めてしまった人がとる行動です。自分は偉い、優れている、もう学ぶことはない。そう思っているから、言動によって優位に立とうとします。
ですがそれは、ただ現実や自分のことを正しく理解できていないだけです。当然、そんな人には新たに学ぶ意欲がなく、成長は止まっています。
優秀な人はみな、自分の無知を自覚しています。新しいことを学んだり、違う世代の人からも教えてもらったりする成長意欲がある人は、自分がどれほど「ものを知らないか」を自覚しています。だから学び続け、成長し続けられます。気持ちがつねに初心者なのです。
強がりをやめ、弱みを受け止めること。まさに「無知を知る」ことが大切なのです。
(本稿は、『記憶に残る人になるートップ営業がやっている本物の信頼を得る12のルール』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。高校時代は友人が一人もおらず、18歳で逃げ出すように上京。居酒屋店員やバーテンダーなどフリーター生活を経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。当初は営業成績最下位だったが、お客様の「記憶に残る」ことを目指したことで1年で紹介数が激増し、社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。38歳で株式会社OpenSkyに入社。40歳で独立し、個人事務所を設立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。