ホンダが日産自動車との技術提携の進捗を報告した。EV(電気自動車)の開発では、モーターとインバーターを共用化する。ソフトウエアが主導するクルマ造りとサービスの体系であるSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)についても2020年代後半に次世代版を投入。EVやSDVで先行するテスラやBYDが追いかける。しかし、本田宗一郎氏が掲げた「技術は人のために」という理念に基づく、ホンダのオリジナリティーを保つことができるのか懸念が拭えない。(ジャーナリスト 桃田健史)
日産との技術提携において
「ホンダらしさ」のその先が見えない
本田技研工業(以下、ホンダ)と日産自動車(以下、日産)は都内で8月1日、技術連携に関する共同記者会見を開いた。
その内容を見て、ホンダ創業者・本田宗一郎氏が掲げたホンダの理念「技術は人のために」を軸足とした、同社の今後の方向性がまだはっきりと見えてこないという印象を筆者は持った。
端的に言えば、「ホンダらしさ」がまだ見えない。
会見の内容に限らず、日本のみならず世界各地の現場で、次世代技術や新サービスの試みについて、ホンダを含めた各メーカーのエンジニアや経営陣の生の声を聞いても、そう感じた。
今回の会見は、両社が3月15日に締結した「自動車の知能化・電動化時代に向けた戦略的パートナーシップの検討開始に関する覚書」を基に進めてきたワーキンググループでの議論の進捗を紹介することが目的だった。
併せて、両社の枠組みに、三菱自動車が加わることも明らかになった。
会見の後半に行われた質疑応答の冒頭、ホンダの三部敏宏社長のコメントが気になった。
知能化・電動化の領域について、「新興勢力がわれわれの想定を超えたスピードで変化している。(自動車メーカー)個社の中で(技術開発を)やると、今のままではトップグループの彼らの背中を追えない」と、この領域での出遅れ感を強調したのだ。
ここでいう新興勢力やトップグループとは、米テスラや中国のBYDを想定したものであることは明らかだ。
また現在、ホンダが置かれている事業環境について「平常時(というより)、むしろ非常時だ。今までのやり方の延長上では、なかなか世界(トップグループ)は捕らえられない」という表現もあり、ホンダとトップグループとの差を大きいと捉えているような印象を受けた。
今回の会見は、次世代技術に特化した内容であり、また、2社連携の初期段階だということもあって、発表された内容には物足りなさがあった。
「技術は人のために」というホンダの企業理念から見て、ホンダが日産と組んで「こんな未来を創造したい」といった夢を盛り込めば、「ホンダらしさ」を強調できたのではないか。
会見を通して、量産効果や初期コストの削減など、「経営のための技術」という印象が色濃く、そこにユーザーや社会といった「人」の存在が見えてこなかった。
これは日産も同様だ。
次ページでは、ホンダと日産の提携による効率化と、それぞれのオリジナリティーをいかに保つかという点について、筆者の考えを述べる。