まず、結論から述べてしまえば、10年後の世の中がAIによって大きく変化していることは、間違いありません。

 私は先ほどのような質問を受けた場合に、こんな話をするようにしています。

 勉強を嫌がる子どもが、親に「なんのために勉強をしなければいけないのか?」と質問したとします。

 現時点における典型的な答えは、きっとこんなかたちでしょう。

「たくさん勉強して、いい大学に入って、いい会社に入れば、給料をたくさんもらえていい暮らしができるからだよ」

 しかし最終的な目的がいい暮らしをするためなら、AIが普及する時代になると、その前提である「勉強して、いい大学・いい会社に入る」という流れが、完全に変わってくる可能性があります。

 なぜなら、利益を出し、高い給料を与える企業組織において、AI時代が到来したあとは、求める人材が変わってくるからです。

「底なしの記憶力」と同じことをしても意味はない

 これまでの社会では、基本的な能力として読み書き、国語・算数・理科・社会・英語ができ、その延長として「いい大学」を出ることが能力の証明になってきた面があります。なぜなら、それは事務処理能力の優秀さを示す有力な指標だったからです。

「いい大学・会社に入りなさい」と教えられ、素直に勉強した子は10年後どうなる?【AI研究者が予測】出典:『10年後のハローワーク』(川村秀憲 著/アスコム)

 ただ今後、AIが普及すればするほど、事務処理能力自体が必要とされなくなっていきます。

 たくさん勉強し、いい大学を卒業した新入社員のほとんどは、「基礎的な能力にポテンシャルがあると期待できるが、現時点では即戦力にはならない人材」です。時間をかけて仕事を教え、企業のニーズやクオリティに合う仕事ができるよう、養成する必要があります。

 そこに、ChatGPTに代表されるようなAIが現れました。これは10年後に限らず現時点でも、うまく使いこなすことができれば、入社したばかりの新入社員より高い利用価値があります。

 つまり、AIの実力が「大学を出たばかりの新入社員」だとすれば、会社にとってはAIを使いこなすことがそのまま「社員教育」や「業務上の指示」になります。

 そのうえ、社員を雇用するには、給料だけでなく、社会保障や福利厚生も必要です。勤務するためのスペースや備品もそろえなければなりません。年間数百万円のコストとなることは確実です。

 半面、AIなら、同じことがもしかしたら1カ月あたり20ドルで実現できるかもしれません。年間にしても数万円程度。

 もはや検討の余地などないのではないでしょうか。