「ものを大切にしましょう」──これは多くの人が幼い頃に親や学校の先生から聞いた言葉ではないだろうか。しかし、使い捨てのものが増え、大体のものは100円均一などで気軽に変えるようになった現代においては、忘れがちな言葉かもしれない。非暴力・不服従で有名なマハトマ・ガンジーは、非常にものを大事にする人だったという。彼の孫であるアルン・ガンジーは、幼少期を祖父と過ごし、多くのことを学んだ。アルン・ガンジーは、祖父の教えを綴った著作『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』で、なぜものを大事にしなければならないのか、その理由を教えてくれている。本記事では、書籍の内容をもとにマハトマ・ガンジーの教えを紹介する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

人として大切なことPhoto: Adobe Stock

短くなった鉛筆も無駄にしないガンジーの教え

 物資が不足していた戦後の時代とは異なり、現代社会では多くのものに囲まれて生活している。

 なんでもすぐ手に入る環境にいると、一つひとつのものを大事にしようという気持ちは薄れがちだ。

 しかし、インド独立の父として知られる、マハトマ・ガンジーは、非常にものを大事にする人だったそうだ。

 彼の孫・アルンは新しい鉛筆が欲しかったこともあり、かなり短くなった鉛筆を草むらに捨ててしまったことがあるという。

 すると、ガンジーは「その鉛筆を探しに行きなさい」と命じ、アルンは暗くなった中、懐中電灯で照らしながら、2時間かけて探し出したのだ。

 ガンジーは、アルンが見つけてきた鉛筆を見て「あと2週間は使えそうだ」と笑うと、なぜ鉛筆を探しに行かせたのか、その理由を教えてくれたそうだ。

肉体的な暴力の燃料となる無意識の暴力とは

 ガンジーは、アルンに次のように語った

「ものを粗末にするのは、ただの悪い習慣ではない。それは周りの世界のことをまったく気にかけていない証拠だ。自然に対する暴力なんだよ」(中略)
「世の中にあるすべてのものは、誰かが時間とお金と労力をかけて作ったんだ。この小さな鉛筆だってそうなんだよ。それを捨ててしまうのは、国の資源の無駄づかいでもあるし、作ってくれた人たちに対しても失礼なことだ」(P.153)

 そう話して聞かせたガンジーは、アルンに「暴力の樹形図」を書かせたという。

 その樹形図には、2本の太い枝があり、1本は「肉体的な暴力」、もう1本は自分では手をくださない「無意識の暴力」だ。

 アルンは、ガンジーから「毎日、自分や周りの人を観察して、この樹形図に枝を足していきなさい」と習った。

 誰かに石を投げたり、誰かを殴ったりしたら「肉体的な暴力」に、差別や抑圧、ものを粗末にする、強欲などに気がついたら「無意識の暴力」に新しい枝を足す。

 結果、アルンは肉体的暴力の枝がかなり少ない樹形図を書き上げたそうだ。

 アルンは肉体的暴力が少ないことを誇りに思っていたが、ガンジーはその図を見て次のように教えてくれた。

「世界に存在する肉体的な暴力は、無意識の暴力が燃料になっているんだ」(中略)
「肉体的な暴力の火を消したいのなら、まず燃料の供給を止めなければならないんだよ」(P.156)

深刻な格差がいずれ肉体的な暴力につながる

 無意識の暴力。それは例えば資源の無駄づかいや食品の廃棄だ。

 資源の無駄づかいは深刻な格差を生み出す。

 ある国では食品が大量に廃棄される一方で、世界では何百万人の子どもたちがお腹を空かせたまま眠っている。

 そういった貧富の差やひもじさは、怒りとなって肉体的な暴力につながるということだろう。

 極度の貧困は、人々を犯罪や暴力に走らせる可能性がある。そうした環境で育った子どもたちは、社会に対して怒りや不信感を抱くようになるかもしれない。

 その結果、暴力を振るう側になっていくかもしれないし、テロや戦争を起こしても仕方なしと考えるようになるかもしれない。

 そのようにして負の連鎖が起こるきっかけをつくる燃料になるというのだ。

 アルンは「最初のうちは、バプジ(ガンジーのこと)がなぜあそこまで短い鉛筆にこだわったのか不思議だった。きちんとできるようになったのは、もう少し大きくなり、世界に存在する貧富の格差に気づいてからだ」と語る。

「無意識の暴力」の燃料を止めるには、一体どうしたらいいのだろうか。

一人ひとりの小さな努力が世界を変える

 地球温暖化や食糧不足といった地球規模の問題に直面すると、私たちは「個人の努力だけでは何も変わらない」と諦めがちだ。

 しかし、ガンジーはそうは考えなかった。ガンジーは個人にも世界を変える力があると信じていたのだ。

 ガンジーがそのように考えるようになったのは、彼のお母さんの言葉の影響が大きいのだそうだ。

古代インドやギリシャでは、すべての物質は小さな原子でできていると考えられていた(この考えは、後に科学で証明されている)。バプジのお母さんも、この古代インドの教えを知っていた。そして息子に、「原子は宇宙と同じだよ」と教えたという。
つまり、私たち一人ひとりの行動が、大きな世界の姿を決めているということだ。自分の周りを大切にしていれば、世界全体をよりよい場所にすることができる。(P.161)

 大きな行動である必要はない。リサイクルできるものはリサイクルし、必要な分だけ食料を買う。要らなくなった服は寄付すればいい。

 そうした身の回りのことを一つひとつ無駄にしないことを私たち全員がするようになれば、きっと地球の反対側の人たちにもいつか届くに違いないのだ。

何も持っていなくても世界は変えられる

 ガンジーは、ほとんど何も持たない人だったそうだ。

 しかし、そんな何も持たない人が、多くの人に影響を与え、世界を変えることができたというのは驚くべきことであり、人の持つ力のすごさを感じる部分でもある。

 私たちは物質的な豊かさをつい求めがちだ。しかし、ものは手に入れたときの気分が一番高く、その後は長続きしない。

 挙げ句の果てに、ものに囲まれすぎて片付けに困り、お金を払って片付けてもらう人までいる。

 これでは本末転倒ではないだろうか。

 要らないものは手放し、ものを手に入れるときは、それは本当に必要なのかを考える。今あるもので工夫できないかを試してみる。

 そういったことの積み重ねが、きっと「無意識の暴力」の燃料を止め、苦しんでいる誰かを救うことにつながっているに違いないのだ。