『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』という一冊の本が刊行された。手の付けられない乱暴な子に育った著者が、思春期の頃、おじいちゃんに教わった「人生の教訓」について書いたものである。そして実は、タイトルにある「おじいちゃん」とは、かの有名な「ガンジー」のことなのだ。12歳だった孫の人生を変えたガンジーの教えとは? 世界中の人々が「自分」と向き合うきっかけとなった本書の邦訳を記念して、その一部を特別に公開する。今回は、ガンジーが孫に語ったゴミ屋敷に住む男のストーリーを紹介。

ゴミ屋敷に住む「だらしない男」の人生を変えた出来事とは?「人が変わる」ために必要なことPhoto: Adobe Stock

ガンジーが語った「だらしない男」の話

 バプジ(おじいちゃん)は、人は変われると信じていた。大変な努力をしてやっと変われることもあれば、ちょっとしたきっかけで変われることもある。たとえ小さな行動でも、雪だるまのように大きくなるとバプジは信じていた。それを私に、いつものようにわかりやすいたとえ話で教えてくれた。

 ある夜、バプジと並んで座り、糸車を回しているときに、バプジがまたお話をしてくれた。お話の主人公はとてもだらしない若い男性で、小さなアパートに一人で暮らしている。その若者は、部屋の掃除を一度もしたことがなかった。他の家事もまったくやらない。そのため部屋は汚れきっていた。

「台所のシンクは、汚れた食器が山になっていた」とバプジは言った。目がいたずらっぽく光っている。「それも、普通の山ではない。天井まで届くほどの山になっていたんだ!」

 その若者も、自分の部屋がひどい状態であることはわかっていた。それでも、部屋に誰も呼ばなければバレないから問題ないと考えていた。

片付けられない男を変えた「小さな出来事」

 ある日、彼は職場で一人の女性と出会い、だんだんと彼女のことが好きになっていった。彼女をデートに誘ったが、自分の部屋には絶対に招待しなかった。二人で公園を歩き、川辺に座って語り合った。

 そしてある日、彼女は一輪の赤いバラを摘み、彼にあげた。このバラは愛の贈り物だった。ゴミ溜めのような部屋に暮らしているこの若者でも、美しい花はきちんと飾らなければならないということくらいは知っている。

 彼はバラを家に持ち帰ると、汚れた食器の山から花瓶を見つけた。花瓶をきれいに洗い、新しい水を入れ、バラを生けた。

 次は花瓶を置く場所を見つけなければならない。そこで彼は、食卓の上をきれいに片づけた。花瓶を置くと、食卓がとても華やかになった。

 食卓だけでなく、部屋も片づけたら、もっときれいになるのではないだろうか? 

 彼は散らかったものを片づけ、床を磨いた。そうやって掃除の連鎖反応が続き、最終的に家中がきれいに片づいて、ピカピカに磨き上げられた。

ほんの少しのきっかけと愛が、人を変える

 彼が心を入れ替えたのは、あのバラにふさわしい、きれいな家にしたいと思ったからだ。バラをあげるという小さな愛の行為が、彼の人生を変えたのだ。

 当時は子どもだった私も、この愛の物語には感動した。人は誰でも、不完全な部分を抱えている。それでも、誰かの愛に触れ、ほんの少しのきっかけで、自分をもっといい人間に変えることができる。

(本記事は、『おじいちゃんが教えてくれた 人として大切なこと』(アルン・ガンジー著、桜田直美訳)の一部を抜粋・編集したものです)