『絶対内定2026 自己分析とキャリアデザインの描き方』の発売とともに2026年卒の就職活動が本格化している。本書の発売を記念して、人気企業で採用から育成までを支援するダイヤモンド・ヒューマンリソースの採用コンサルタント・福重敦士氏に就活の心得を聞いた。本記事では、子の就活への適切な関わり方について、具体例に触れながら解説する。(取材・文 奥田由意、構成 ダイヤモンド社書籍編集局)

「どうして親が一緒だとだめなんですか」と企業説明会で担当者に詰め寄り、「いまいちよねえ」と合同説明会を論評…。就活に介入する親たちのウソみたいな仰天エピソード子の就活には関わらないのが基本だが……(Photo: Adobe Stock)

親こそが一番身近な社会人のサンプル

 昨今の就活生の中には「親と仲良し」という人も多く、親に事細かく就活の進捗を相談していることもよくあるようです。

 では、親は子の就活にどこまで介入すべきなのでしょうか。

 もちろん個々の家庭の事情にもよりますが、基本的に親は子の就活に介入しないのがベストだと私は考えています。

 子の就活はあくまで子のものです。もう成人して、立派な大人なのですから、本来は、親がその選択に口を挟むべきではありません。

 もちろん、子から相談されれば、真摯に答えてあげればいいと思います。ですが、親の世代と今の就活生の世代では、社会状況も、経済状況も、就職をめぐる環境も、人々の常識も、何もかもが大きく変わっています。このため、親が就活について有効なアドバイスができるとは考えないほうが賢明なのです。

 ただし、ひとつだけ親ができることがあります。

 それは、親自身が、働いている社会人として実際の話をするということです。就職はある企業に所属するということだけを意味するわけではありません。

 言うまでもないことですが、企業は単独では存在せず、どんな企業でも、大きな社会のもうけの仕組みの中でなにがしかの役割を担い、利益を上げるために企業活動をしています。そして「就職する=そこで働く」ということは、自分もその大きな社会の仕組みのなかに位置づけられた当事者として、何らかの役割を担うということです。

 お話しする機会があるたびに、「内定を得たければ、当事者型の就活をしなければならない」と申し上げてきました。

 働いている親は、子にとっても一番身近で、何でも遠慮なく聞きやすい当事者のサンプルです。社会の中で、企業の中で働くとはどういうことなのかを話してあげることは何よりの参考になります。

 その際、「大変なんだよ」とか「人間関係が面倒で」などという抽象的な言い方ではなく、できるだけ具体的に、朝から晩までどういうスケジュールで実際に何をしているのか、取引先はどういう企業なのか、その取引先とあなたとのやりとりが企業の活動の何を担っているのか、社内の人同士はどのように連携しているのか、何をすることで企業は利益を得ているのか、といったことを話してあげることをお勧めします。

 以上がアドバイスの1つ目です。

 もうひとつ親ができることは、基本的な礼儀、しつけを教えておくということです。

 企業の担当者は意外に学生の「育ち」を見ています。何も何代続いた名家だったり、エリート家庭だったり、お金持ちだったりする必要はありません。

 人間としてごく基本的な挨拶――朝起きて「おはよう」、出かけるときは「行ってきます」、帰ったら「ただいま」、食事のときは「いただきます」「ごちそうさま」、何かをしてもらったら「ありがとう」――そういうことを日頃の生活で言えるかどうか。それが基本的な礼儀ということです。とてもシンプルですが大切なことです。

親に介入された就活生の仰天エピソード

 最後に、企業に好印象を持たれる親とはどういう親か、ということについてお話しします。

 これはズバリ「影をちらつかせない親」ということに尽きます。

 親が就活に介入した仰天の実例を少しお話しましょう。

 就活生向けの企業合同説明会で、親が参加企業のパンフレットをめくり、企業名の横にペンでメモをしながら、子どもに「ここはどう?」と聞いたり、「いまいちよねえ」と「論評」したりした挙げ句、「うちの子が入ってもいいような、大した企業は参加していないみたいなので、今日は帰らせていただきます」と言って帰ってしまった親子を見たことがあります。

 オンラインのイベントで、「子どものIDで入れないので、私のIDで入ってもいいですか」と電話してくる親や、説明会の質疑応答で、「ここの労働環境は劣悪だと思うが、どうなんだ」と詰問調で担当者に迫り、「それについては、改めてお答えします」と担当者が答えると、「今、答えろ」と怒鳴り出した親。

 企業説明会に親がついてこようとしたので、断ったら、「どうして親が一緒だとだめなんですか。子の将来の大事なことなのに」と「キレ」だした親。

 内定式に親がうれしそうに出席していた、という例もありました。

 以上は、ちょっと困った親御さんのお話です。

 これとは別に、地場産業や、地域密着型の中小企業などで、内定者の祖父母まで含めた家族を旅行に招待する企業もあります。

 これは、「社員は家族、社員の家族も家族」といった、大手の大企業とは違った発想があったりするのだろうと想像できます。

 招待された場合、仮に子の就活には関わらないと決めている親だったとしても、他の内定者が全員参加しているのに、自分たちだけ参加しないと、決まりが悪いことになるのでは、といった配慮が働いて、参加しているという事情もあるのかもしれません。

 こういった例はありますが、ともかく、自分が働いている具体的な話をする以外は、黙って見守るのが最上の策だと思います。

福重敦士(ふくしげ・あつし)
株式会社ダイヤモンド・ヒューマンリソースHD営業局長
43年続く「ダイヤモンド就職人気企業ランキング調査」で毎年上位にランクインする超大手・人気企業の採用コンサルティングを手掛ける。メーカー、商社、金融、インフラ、マスコミ、コンサル等、採用マーケットを知り尽くしたカリスマ営業パーソン。同社のLIVEセミナーの講演も主宰する。