『絶対内定2026 自己分析とキャリアデザインの描き方』の発売とともに2026年卒の就職活動が本格化している。本書の発売を記念して、人気企業で採用から育成までを支援するダイヤモンド・ヒューマンリソースの採用コンサルタント・福重敦士氏に就活の心得を聞いた。本記事では、「オヤカク」後の内定辞退はありなのか、就活におけるリクルーターの内情などについて解説する。(取材・文 奥田由意、構成 ダイヤモンド社書籍編集局)

【オヤカク】内定先から他社の選考辞退を迫られたらどうすべき? 企業のホンネから対策を解説「オヤカク」の目的とは?(Photo: Adobe Stock)

「オヤカク」に隠された2つの意味

「オヤカク」という言葉もずいぶん一般的に聞かれるようになりました。企業が、内定を出した学生の親に対して、「お子さんが入社されますが、いいですか」と確認をすることを指します。

 企業が親に確認を取っておくことで、子が内定辞退をすることを防ぐべく実施されているようです。

 学生は複数の内定から一社を選ぶため、自由に内定を辞退できますが、企業はひとたび内定を出してしまえば、あとは基本的には本当にその学生が入ってくれるのかどうかを待つ「選ばれる側」です。内定を境に企業と学生の立場は逆転するのです。

 早い話が、企業は親を味方につけたくて、「オヤカク」をしています。

 内定した企業がどんなに立派であったとしても、また、たとえ第一志望であったとしても、「本当にこの企業でいいんだろうか」という不安を抱かない学生はいません。あるいは複数の内定を持っていて迷っている場合はなおさらです。

 そんなときに親が「●●社、いいんじゃない」と言えば、学生は安心して、その企業に就職できる。そのように学生の背中を押してもらうために、企業は「オヤカク」を取るのです。

 実はもう一点「オヤカク」を取りたい企業側の心理というものがあります。それは、その学生が「まともな人間であることを保証してほしい」というものです。仮に、学生に対して「ちょっとな……」と思うことがあったとしても、大きな問題を起こさない限り企業から内定を取り消すことはそうそうできません。

 企業は「おたくのお子さんは社会的に問題のない方ですよね」、「犯罪を犯したりしていませんよね」、「SNSの『裏垢』で、暴言を吐いたりしていませんよね」、「ソーシャルゲームで大きな借金を抱えたりしていないですよね」といった意味をこめて、いわば、身元保証をしてもらうようなつもりで「オヤカク」が行われているとも言えます。

「オヤカク」に法的な拘束力はない

 では「オヤカク」を取られたあとで、学生が内定辞退をしてもよいのでしょうか。

 基本的に、学生は立派な成人であり、入社するかどうかはあくまで本人の選択なので、自分で決めればいい。

 内定式が行われる10月1日までであれば、辞退は「あり」だと考えています(※その後一切辞退ができないわけではないですが……)。内定式を基準にしているのは、その日を超えてしまうと、企業は学生を迎え入れるさまざまな準備をしているので、辞退する場合は関係各所にいろいろな影響が出てしまうためです。

「オヤカク」をされようと、されまいと、学生は自分の判断でその企業に就職するかどうか決めればよいのです。

 当然ですが、「オヤカク」は契約でもなんでもありません。「オヤカク」後に内定を辞退したからといって、法に触れることは基本的にないので安心してください。

内定辞退をしてほしいと言われたら?

「オヤカク」と似た問題で、企業側から、他の企業の内定辞退を迫られるという話があります。

 これは誰が言っているかをよく考える必要があります。多くの場合、人事担当者ではなく人事権のない人(例えばリクルーター)なのではないでしょうか。もし人事担当者に言われたなら、その担当者は実際には人事権がない担当者ということになります。

 これもはっきり言っておきたいのですが、実際に人事権がある人が他社の内定を断れと内定者に要請することは少ないです。

 企業は採用活動に莫大なコストをかけています。内定者を「取りこぼす」と、企業は学生を採用できなかったという意味でも、これまでかけたコストが無駄になるという意味でも、大きな損失を被ります。

 就活をしていると、そのような視点はなかなか持てないものですが、リクルーターも、採用担当者も、それぞれその企業の中では、評価される立場にあります。

 リクルーターや採用担当者は、内定者をどのくらい確保できたか、逆にどのくらい「逃げられたか」ということを評価の基準にされるのです。このことをわかっていれば、他社の内定を辞退するように迫られても落ち着いて対応できると思います。

 さらに言えば(就活生というぎりぎりの立場でそこまで考えるのは難しいかもしれませんが)、リクルーターや採用担当者も「評価される立場の人間である」ことを理解して、場合によっては、その立場を尊重してあげることが必要かもしれません。

 もし内定をいくつも持っている状況で、ある企業に関して、絶対に入社するつもりがないことがはっきりしているなら、その企業には早めに辞退を伝えてあげるといったことです。

「オヤカク」や、内定辞退の強制を必要以上に恐れず、自分自身が納得できる企業に入社してほしいと思います。

福重敦士(ふくしげ・あつし)
株式会社ダイヤモンド・ヒューマンリソースHD営業局長
43年続く「ダイヤモンド就職人気企業ランキング調査」で毎年上位にランクインする超大手・人気企業の採用コンサルティングを手掛ける。メーカー、商社、金融、インフラ、マスコミ、コンサル等、採用マーケットを知り尽くしたカリスマ営業パーソン。同社のLIVEセミナーの講演も主宰する。