年間170万人が死ぬ
「多死時代」の到来

 鹿児島の全県民と同じくらいの人口が、たった1年で消えていく――。

 国立社会保障・人口問題研究所によると、2011年の年間死亡数は125万人。ところが、2040年には166万人と、鹿児島県の人口170万人にせまる見込みだ。1918~19年にスペイン風邪が流行したときはおおぜいの死者が出たそうだけど、この時ですら年間死亡数は150万人程度。それを超える人たちが死んでいく世の中になるってことだよね。

 医療の進んでいなかった頃の日本は、子どもがたくさん生まれるかわり、人々の寿命が短い「多産多死」の社会だったんだ。 その後、子どもが減り、医療の発達によってお年寄りが長生きするようになった。

 ところが、これから到来しようとしているのは「多死時代」。これまで、日本人が体験したことのない時代だ。いったいどんな時代なのか。山形大学大学院医学研究科 教授 村上正泰さんに教えてもらった

「自宅で死ねない」のに
病院から追い出される人々

 年間で亡くなる人が、今より40万人も増える――心配なのが「死に場所」だ。

 かつては自宅で家族に看取られ、臨終を迎える人が多かった。ところがだんだん病院で死ぬ人が増え、昭和51年には自宅死派を上回るように。今では、およそ80%もの人たちが病院のベッドで最期を迎えている。

 病院死が増えた理由のひとつが、医療技術の進歩だ。治る見込みのない死病にかかり、意識を失った状態でも、薬や医療器具で命をつなぐことが可能になった。

 もちろん理由はそれだけじゃない。

「家族がいない」「いても日中は働いているので、世話できない」など、最近はいろいろな“家庭の事情”がある。自宅に帰りたいのはやまやまだけど、そうもいかない人たちが大勢いるってことだね。未婚化が進んで一人暮らしの人が増えれば、今後は「自宅で死ねない人たち」ばかりになってしまう。

「それにもかかわらず病院に入院できる日数は今、どんどん減っているんですよ」