勉強会で声の悩みを持つ男性と出会い、軽い気持ちでアドバイスをし、その結果として彼に背中を押してもらうことがなければ、いま、こうして声の指導を仕事にはしていなかったかもしれません。この男性が、いまの私の夫です。

 子どもたちではなく、大人向けの声の指導。新たなチャレンジに乗り出した私がまず訪れた場所は、各地のボイストレーニング(以下、ボイトレ)のスクールでした。みずから体験入学することで、ボイスレッスンの方法を学びたいという素直な気持ちと、ビジネスでいうところの「市場調査」の目的もありました。

 そこで得た感想は、「教え方が上手じゃないな」というものでした。のちの夫が「半年も通っているのに成果が出ない」と首を傾げていたのが、ようやく理解できました。

 教え方が抽象的で、ビジネスパーソンを対象としているのに、ビジネスに直結するようなレッスンを行っていなかったのです。

 当時の私には、ボイトレスクール運営の経験はありませんでしたが、大学時代から子どもの音楽教室を自分でやってきた指導実績と、声楽家として培ってきた発声のノウハウや、絶対音感を持つプロならではの鋭い聴力がありました。

「これならいける!」

 直感的に確信しました。少々生意気な言い方をすると、人が教えているところを見て、「私のほうがもっと上手に教えられる」という自信を得たわけです。

ビジネスパーソンに多い
声の「5つの悩み」

 スクールを始めてみて、自分の声に不満や悩みを持っている人が、本当に多いことがあらためてわかりました。

 悩みの内容は人それぞれですが、定番といえるのが「声が通らない」「聞き返される」「滑舌が悪い」「よく噛む」「説得力がない」の5つ。これが圧倒的に多い。

 スクールに来るというのは、自分の声の欠点に自覚があるということです。あるいは周囲から指摘されて、できれば直したいと思っている。

 実は、この時点で多くの人より、一歩前に進んでいるといえます。