甲子園の連投以上に
選手を消費させる悪習とは

 スカウト氏が嘆息まじりに言います。

「考えてみると、大谷翔平、藤浪晋太郎のドラフトとその後の結果を見て、我々は考え方を変えるべきだったのです。大谷の甲子園通算成績は14回を投げ防御率3.77、16奪三振。 野手としては2試合で打率.333、1本塁打。藤浪晋太郎は、甲子園での通算成績は76回を投げて防御率1.07、90奪三振。秋には第25回AAA世界野球選手権大会の日本代表に選出され、計4試合で24回1/3を投げて防御率1.11。

 確かに大谷の速球も身体的能力も高かったが、藤浪の甲子園での成績やしっかりした野球理論を聞いていると、大谷の二刀流は子どもっぽいとしか思えない。実際、藤浪には4球団競合し、大谷は日ハム単独指名だった。しかし、伸びしろは大谷にあると判断した日ハムの考え方と、その後のプロでの活躍を見れば、甲子園有名校の出身者は伸びないと、この事例で判断すべきでした。

 高校野球の有名校は、猛烈な練習や甲子園での連投のことばかりが『酷使』と攻撃されますが、それよりも彼らは、練習試合でも必ず登板せざるをえなくなり、甲子園の連投以上に肩を消費しているという点も問題なんです。実際、松坂大輔は『痛いところがなかった日はない。この形で投げれば痛みがないというところを探して、その日その日の投げ方を微妙に変えていた』と言っていたそうです」

 一方、大谷翔平の場合、花巻東の佐々木洋監督の起用法はまったく違いました。卒業まで彼の身体は大きくなっていたので、成長痛が出て、1年生から無理をさせて投げさせることはできなかった。2年生だった2011年秋の東北大会準決勝(相手は現八戸学院光星)で、大谷翔平が投げていたら、センバツに出場できたかもしれない試合でした。そのときも登板を回避しました。

 ドクターと相談し、ご両親とも話をし、もちろん本人とも話をして、「投げさせない」という最終判断を下しました。そして他の選手たちにも、起用しないことを説明して戦いました。

 大阪桐蔭は強豪校ですが、部員数も多く、グランドは近所にコンビニが一つあるだけというへんぴな場所の山の上。授業が終わるとグランドまでランニング。休息の唯一の楽しみはコンビニに行きお菓子を買うだけ。ライバルが多ければ、少々痛いところがあっても我慢して出場機会を奪い合います。

「藤浪投手も、松坂投手のように、いつもどこかに痛みを抱え、投げ方を変えているうちに自分のフォームがわからなくなったのが、コントロールが定まらない原因かもしれません。実際、大阪桐蔭出身で甲子園で大活躍した選手でも、プロだと目が出ないケースも多々あります」(スカウト氏)