変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

「現場から新しいアイデアが出ない」と文句を言っている「ダメな管理職」の特徴Photo: Adobe Stock

「自由に考えさせている」という誤解

 企業において、「現場から新しいアイデアが出ない」と嘆く管理職は少なくありません。こうした管理職は口をそろえて「現場に自由に考えさせている」「好きなように構想するよう言っている」と主張します。

 しかし、残念ながらこのような指示では、現場から革新的なアイデアが生まれることはあまり期待できません。なぜなら、人間は完全な自由が与えられると、かえって創造的な発想が抑制されるからです。

 たとえば、遠足のおやつ代が500円以内と決められていると、その限られた予算内で最大限楽しめるよう工夫した経験はありませんか?制約があるからこそ、人は限られたリソースの中で最大の効果を発揮する方法を考え、創造力を働かせるのです。

制約のない環境では生まれない創造性

「現場を信じている」といって具体的な方針や目標を与えない管理職がいますが、現場に完全な自由を与えることには、かえって非効率性を生むという危険性をはらみます。

 自由は一見すると良いことのように思えますが、制約のない環境では、人々はどの方向に進めばよいのかを見失いがちで、結果として保守的な考え方にとどまりやすくなります。

 先の遠足の例にしても、もし予算制限がなかったら、友達の様子をうかがったり、どれをどれだけ選ぶべきか散々迷った末に、結局無難な選択肢に落ち着いてしまったかもしれません。

 方針や目標はただの制約ではなく、創造的思考を促すための道標です。これがなければ、現場は何を基準に発想を展開すべきか分からず、結果的に保守的で無難なアイデアに終始することが多くなります。

明確なビジョンと規律の設定

 リーダーは現場に自由を与えるだけでなく、同時に明確なビジョンと規律を設定することが求められますビジョンは何を目指しているのかという全体像を示し、規律はそのビジョンを実現するための枠組みを提供します。

 たとえば、「次の製品では環境に優しい素材を使うことを必須とする」「予算は500万円、3か月以内にプロトタイプを完成させる」といった具体的な指示を与えることが重要です。これにより、現場はその枠内で最大限の創造性を発揮できるようになり、組織にとって革新的なアイデアを引き出す鍵となります。

 アジャイル仕事術では、現場の創造性を最大限に引き出すための環境を整える方法を多数紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。