インプラント治療においては、「国お墨付きの専門医」がまだ存在していない。であれば、がん治療など医科の医師を探すときのように「症例数」、あるいは「大学教授の肩書」などを有力な判断材料にして選べばいいのか。実はこれも、インプラントの世界では通じない。特集『歯医者「減少」時代』(全26回)の#9では、インプラントで頼れる歯科医師と残念な医師の見極め方を徹底追求する。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)
「インプラント一択!早くて安い」は
“残念な医師”の可能性大
歯を失ったときの治療は選択肢が三つある。「入れ歯」「ブリッジ」、そして人工歯根を顎の骨に埋める「インプラント」である。
このうちインプラントでの治療を検討する際、「インプラントにすべきだ!」と一択を迫ったり、「うちは早くて安い!」と手軽さを売りにする歯科医師に出くわしたら、「残念な医師」の可能性大。商売っ気丸出しで、患者から選択肢を奪おうとしているかもしれないからだ。
入れ歯やブリッジと相対比較すると、確かにインプラントは「かむ力・かみ心地」「見た目」で勝る。ブリッジが両隣の歯を削るのに対し、他の歯に負担なし。装着する歯の寿命についても、10年後に9割超が残っていたという調査報告があり、やはり優れている。
しかし、治療にかかる期間、費用、リスクでは、入れ歯とブリッジに劣る。入れ歯やブリッジの治療期間(目安)が数週間~1カ月なのに対し、インプラントはかめるようになるまでに3~6カ月、あるいは1年近くかかることもある。
治療費用(1本の目安)は公的保険が適用される入れ歯とブリッジが1万円弱~3万円なのに対し、公的保険非適用の自費診療(自由診療)で30万~50万円かかる。
一言でインプラントといっても手法は一つではなく、治療期間が短いものもあるため「うちは早くて安くて、すぐかめる」とアピールできるのだが、まず疑いから入った方がいい。
インプラントでは通常、人工歯根を埋め込んだ後、骨が結合するのを数カ月待つ。それから仮歯をかぶせる。治療期間を短縮する手法では、埋入と同時に仮歯を入れ、手術当日からかめるようにする。
この手法は患者に手軽さを感じさせる。しかし、施術のレベルは真逆で、手術可能な歯に一定の条件がある。経験と技術のある熟練者だからやれることで、日本口腔インプラント学会は治療指針の中で「患者の負担を軽減し、患者の期待に早期に応えることができるという大きなメリットがある反面、インプラント治療の失敗というリスクを背負うことにもなりかねない。したがって、期待する結果を得るためには、ある程度のリスクを伴うことをあらかじめ患者に伝えておく必要がある」と言及している。
この手法は治療コストも抑えられることから、患者集めにはもってこい。他の歯科医院と差別化するため、未熟な腕にもかかわらず手を出す歯科医師がいる。患者は治療法を選択すると同時に、信頼できる歯科医師を選ぶ必要がある。
信頼できる歯科医師を選ぶ――。これが、とりわけインプラントでは難しい。というのも、「国お墨付きの専門医」がインプラントにはまだ存在していない(本特集#3『インプラント治療で「国お墨付きの歯科専門医」がいまだに不在…その裏に広がる“医療の闇”』参照)。
であれば、がん治療など医科の医師を探すときのように「症例数」、あるいは「大学教授の肩書」などを有力な判断材料にして選べばいいのか。実はこれも、インプラントの世界では通じず、後悔につながりかねない。
なぜ、症例数や教授の肩書が通用しないのか。次ページでは、その理由と共に、インプラントで頼れる歯科医院、歯科医師を徹底追求する。