転職したばかりの女性社員。ある日会社を休んだら、住所を教えた記憶のない職場の先輩がお見舞いと称して家にやってきた。いったいなぜ先輩は住所を知っているのか?さらに、同僚は自分の出身大学を知っているらしい……確かに履歴書に書いた情報ではあるが、それを職場のみんなが知っているのはおかしいのでは。これは個人情報保護違反にならないのだろうか?(社会保険労務士 木村政美)
都内に本社がある建設会社。横浜、埼玉、千葉に営業所がある。従業員数は全体で200人
<登場人物>
A子:今年6月に中途採用された28歳
B子:A子の先輩でパート社員
C:30歳で独身。A子に一目ぼれし、ひそかに好意を寄せている
D:横浜営業所長で専務、E部長と共にA子の採用選考で面接官を務めた。45歳
E:甲社の人事部長で社内の個人情報保護担当の責任者でもある
F:甲社の顧問社労士。本社に赴くことが多いが、1カ月に1回の割合で営業所を巡回し労務相談を受けている
転職して横浜営業所へ配属に。ひとり暮らしを始めたが……
A子は都内の大学を卒業後、大手メーカーで総務事務を担当していたが、残業の多さに嫌気がさして甲社に転職。本社で1週間研修を受けた後、定年退職した総務主任の後任として横浜営業所に配属されることになった。
横浜営業所はD営業所長以下、現場監督の正社員が21人、総務担当の正社員がA子の他に2人おり、現地採用のパート社員が5人。総勢30人のメンバーが在籍している。A子の実家は都内にあり、通勤すると片道2時間以上かかるため、職場から自転車で10分の場所にアパートを借り、ひとり暮らしを始めた。
初出勤日の午後。D所長から業務の引き継ぎを受けたA子が自席でパソコンを立ち上げようとしたとき、隣席のB子が話しかけてきた。
「A子さんって、乙丙(おつへい)大学の経済学部を出ているんでしょ?ウチの息子も今、あなたと同じ大学で同じ学部に通っているの。あそこって学費が高いから捻出するのが大変。私ももっと頑張って働かなくっちゃ」
「えっ?」
「それに、A子さんが住んでいるところ(実家)の2軒先に、ウチの夫の実家があるの。昨日も行ったから、きっとあなたの家の前を通り過ぎているわね」
A子は心の中でつぶやいた。
「なぜ、B子さんは私の出身大学や実家の場所まで知っているの?今日出社したばかりで誰にも話していないのに……」
しかしそれ以上B子に詮索されたり、他のメンバーから同様の話題を振られたりすることはなかったので、特段問題視はしなかった。