会社の上司に相談してみることに

 火曜日の朝。A子はD所長に、まだ歩けないので今日も会社を休むことと、昨日Cがアパートを訪ねてきたが、母親が世話をしてくれるので見舞いは不要だと伝えてほしい旨を話した。しかしD所長はA子の頼みをCに伝えなかったので、夕方、実家に戻ったA子の母親と入れ違いにアパートを訪れたCは、A子に中華弁当を差し入れると、「明日はステーキ弁当買ってくるから一緒に食べようね」と言い残し帰っていった。

「明日はきっと部屋に上がってくるに違いない。それは絶対にイヤ!でも明日お母さんは用事があるから来られないって言っていたし。D所長はあてにならないから、本社に連絡しよう」

 A子は水曜日の朝、本社のE部長に電話をし、D所長が勝手に自分の履歴書のコピーをメンバー全員に配ったことが原因で、Cが見舞いと称して自宅を訪れ、困っていることを訴えた。

個人情報保護法とは

 一方、その日の午前中のこと。D所長は、所用で営業所を訪れたF社労士に、「6月から新しい総務主任が入ってきたんだけど、今日はあいにくケガで休んでいるんだ。今度あいさつさせるから、労務管理の指導をよろしく頼みます」と言い、A子の履歴書コピーをF社労士に渡した。

 しかしF社労士は「私に部下の履歴書を見せたり、コピーを渡すなんてしちゃダメですよ。個人情報保護法違反になりますからね」と言いながらD所長にコピーを返した。

 D所長は不思議そうな顔をした。

「えっ、どうして?」

<個人情報保護法とは>
 個人情報の適切な利用を促しつつも、個人の権利利益をしっかり保護することを目的とした法律で「個人情報」や「個人データ」といった保護の対象となる情報の定義や、各情報を利用する際のルールを定めている。

<個人情報とは>
○個人情報保護法でいう個人情報とは、生存する個人に関する以下の情報をいう。
(1)当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる情報。
(2)他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる情報。

<個人情報の具体的な例>
・本人の氏名・生年月日・連絡先(住所・電話番号・メールアドレスなど)
・本人の氏名と会社の所属組織や役職などを組み合わせた情報
・特定の個人のものと判定できるメールアドレス
・個人を特定できる防犯カメラ映像や音声情報
・官報や新聞、ホームページ、SNSなどで、個人を特定できる情報
・マイナンバー、パスポート番号、基礎年金番号など

 F社労士の説明を聞いたD所長は尋ねた。「個人情報の定義からすると、履歴書の内容も個人情報ってことですか?」