<履歴書の記載内容は個人情報か?>
 応募者の氏名、住所、生年月日、電話番号などの連絡先は個人情報であり、学歴、職歴、取得資格なども企業が氏名と結びつけて管理している場合は個人情報である。

履歴書の内容をメンバーに教えるのはなぜマズイのか

「履歴書の内容が個人情報なら、みんなに教えるのはマズイのかな? でも、住所とか携帯電話の番号とかは、メンバー同士でお互い教え合うことだってあるよね。どうせそのうちに分かっちゃうんだから、あまり深刻に考えなくてもいいと思うけど。Fさん、どう思う?」

「自らの意思で教えた場合と、先回りして情報を流すのとでは、最終的にメンバーがその情報を知ることになったとしても意味が違います。中には、特定の人になら教えてもいいけど、全員にまで住所や電話番号を知られたくないと思う人もいるでしょう」

<個人情報保護法による履歴書の取り扱いについて・甲社の場合>
(1)個人情報は、利用する目的を出来る限り特定しなければならず(個人情報保護法17条)、また原則予め本人の同意を得ることなく利用目的を超えて個人情報を取り扱ってはならない。(同法18条)
(2)甲社の場合、A子に履歴書提出を求めた目的は採用選考の資料として利用するためである。この場合、個人情報を取得する段階で利用目的が明らかなため、A子の同意は要しない。
(3)A子の履歴書を閲覧する合理的理由を有するのは、応募の受付担当および直接選考に関わる者(専務、E部長。D所長など)のみになる。同じ企業の一員であったとしても、合理的理由がない他の従業員への情報開示は個人情報の第三者提供に該当する。
(4)従ってD所長がA子に断りなく履歴書をコピーし、営業所のメンバー全員に配布しF社労士にも配布しようとするのは個人情報の保護に反する行為である。
(5)(4)の行為をしたことにより、甲社及びD所長が直ちに個人情報保護法違反として罰則を受けるわけではないが(同法148条1項から3項)、そのことが原因でA子が不利益を被った場合(例えばCからつきまとい行為を受けるなど)、A子から甲社及びD所長に対して、民事上の訴え(慰謝料の請求など)を起こされる可能性がある。

 D所長の顔色がさっと変わった。F社労士が「どうしましたか?」と尋ねると

「自宅で療養しているA子さんの元にC君が見舞いに来ており、自分から断りにくいので代わりに断ってほしいと頼まれました。自分がA子さんの履歴書コピーをメンバーに配ったせいで嫌な思いをしているようです。どうしたらいいですか?」と言う。