会社を休むことになったA子の家にやってきたのは……

 7月上旬の日曜日。アパートの下り階段を踏み外して転落したA子はその衝撃で右足首を複雑骨折した。病院通いと家事の補助のため実家から母を呼び寄せ、しばらく会社を休むことにした。

 翌日の18時頃、A子の部屋のインターフォンが鳴った。A子は買い出しに出ていた母が戻ってきたと思い、ドアを開けるとCが立っていた。

「足を骨折したってD所長から聞いたけど、具合は大丈夫?」

「ご迷惑をかけてすみません。今日病院へ行ってきました。ひどい痛みが引いたらすぐに復帰します。ところでCさん、どうして私の住所を知っているんですか?」

「誰って……君の住所くらい、メンバー全員知ってるよ」

「どうしてですか?」

「新入社員が来るときに、『今度、こんな人が入ってくるよ』ってD所長がその社員の履歴書のコピーを皆に配るんだ。それに社員の住所や連絡先が途中で変わったときも、届け出を受けたD所長が全員に伝達しているよ」

「B子さんが私の出身大学や実家の場所を知っていたのは、D所長のせいだったんだ……」

 A子の顔を見て安心したCは、「明日も夕方見舞いに来るよ。何か美味しいものでも買ってくるね」と言って部屋を後にしたが、A子はCの様子にただならぬものを感じた。

「Cさんには悪いけど、1人暮らしだしここには来てほしくない。でも部署の先輩だから無下(むげ)にはできないし……そうだ、D所長に事情を話して、来ないようにしてもらおう」