この手法はロシアのリクルート手法と大差はない。中国も、基本的には金銭的に依存させるほか、イデオロギーの部分で共鳴する者を取り込む。「脅迫」することもあろうが、それでは継続性が得られない可能性も残るほか、特に組織を裏切るというリスクが大きくなる。

 中国の政治工作の例では、政治工作部門が、対象者である政治家の金銭的不安定を「弱み」とし、そこに付け込んで脅迫するのではなく、金銭的・政治的・精神的支援をすることで依存させ長期運営を果たしているケースもある。

「デンソーの最高機密」はこうして中国人の手に渡った…パソコン破壊の痛恨事態はなぜ起きた?『カウンターインテリジェンス 防諜論』育鵬社 上田 篤盛 (著), 稲村 悠 (著)

 また、必ずしも工作活動によってイデオロギーを共鳴させるのではなく、既に同じ方向性のイデオロギーを持つ人物にアプローチし、イデオロギー上でいわば協力関係を結ぶほか、支援するといった手法もとられる。

 一方で、ロシア機関員と大きく異なるのは、中国機関員は日本人と容貌が似ており、しかも、日本国内に多くの中国人コミュニティを持ち、広大な人的ネットワークを有していることだ。それを活用し、「千粒の砂」戦略により多様なチャネルから情報を収集する。

 そのため、個々人の動機による活動と中国の諜報活動によるものが混在し、明確に中国国家による諜報活動だと指摘できない。むしろその状況こそが脅威となっている。