インベスターZで学ぶ経済教室『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第118回は、住宅ローンの「固定金利」「変動金利」を選択するうえでの心構えを説く。

「固定が無難」と答えたけれど

 不動産投資対決に備えて自宅の資産価値とコストを試算した主人公・財前孝史は、3500万円の物件取得に総額6000万円もの費用がかかると気づく。特に住宅ローンの利払いの多さに驚き、住宅購入は非合理的な選択という考え方に傾く。

 日銀の金融政策が歴史的転換点を迎え、日本経済が「金利ある世界」に戻ろうとしている。銀行預金に金利が付くなど金利上昇は家計にとって基本は恩恵だが、それはあくまで全体像。金利上昇に戦々恐々とする人もいる。典型が変動金利型で住宅ローンを組んだ家庭だろう。近年は変動金利型ローンが主流だったので影響を受ける人は少なくない。

 前回の当コラムで記したように、私自身も変動金利を選び、頭金なしで購入金額全額をローンで賄った。一度借り換えを行っていて適用金利は1%を少し下回る水準だ。

 私がマンションを買った2000年代半ばはまだローンは固定金利が主流だった。ファイナンシャルプランナー(FP)の大半が「固定型が安心」と推薦し、私自身も知人に相談されると「固定が無難だよ」と答えるのが常だった。なのだが、取材などで知り合ったFPに「ご自分の住宅ローンはどうしているんですか」と聞くと、変動金利の方が多数派だった。

 FPや私が不誠実だったわけではない。変動金利を選んだ上で万が一の金利上昇に備えるには、それなりの経済・金融の知識が必要だから、リスクの低い選択を勧めていただけだ。

 私自身が変動金利を選んだ理由は「逃げ切れる」という読みと「ヤバそうなら固定に乗り換える」という二段構えの戦略があったからだ。当時、変動金利の基準となる短期金利(プライムレート)は1%台半ば、固定金利の基準の長期プライムレートは2%台だったと記憶する。

 短期プライムレートは基本、日銀の政策金利に連動する。一方、長期プライムレートは5年物といった長めの金利を参照して決まる。短期金利に比べると、経済の実力や海外金利、債券市場の需給などが反映されやすい。

「ヤバそうなら借り換え」で逃げ切れる?

漫画インベスターZ 14巻P51『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 ローンを借りる前にいくつかのシナリオをシミュレーションしてみた。その結果、「10年から15年以内に日銀が2%程度まで利上げしないかぎり、変動金利の方が有利」というざっくりした試算が得られた。その頃の日本経済はデフレ気味で、10年程度の期間で超低金利から「金利ある世界」に転換できる可能性は極めて低いと判断した。

 二段構えの「ヤバそうなら借り換え」というケースは、例えばキャピタルフライトで円安に歯止めがかからなくなる事態を想定していた。日本国債の格付けがジャンク(投機的水準)まで下がり、個人や企業のマネーが先を争って海外に逃げ、円相場が1ドル300円といったレベルまで暴落する事態だ。

 もっとも、巨額の対外債権を持つ経済大国・日本がそんな状態になる可能性は極めて低い。通貨危機の兆候が見えたら固定金利に乗り換えれば良いし、積立投資していた外貨建て資産や金(ゴールド)への投資がヘッジになると考えた。

 なお、日銀は利上げに着手したが、すでにローン残高もかなり減っているので、今から固定に乗り換えようというつもりはない。つまり「逃げ切り」は成功した。

 2回にわたって住宅ローンについて私の考えを書いてきた。最後に変動・固定の選択以上にもっとも重要なポイントを付記しておこう。

「身の丈を超えた借り入れはしない」

 不動産購入はレバレッジ投資の一種だ。裏目に出たら人生が詰むような高レバレッジ投資を避けるのは、FXや株式投資にも通じる人生のリスク管理の要諦だ。

漫画インベスターZ 14巻P52『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 14巻P53『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク