日本が20年以上、世界一であり続けている「経済複雑性指標」。この耳慣れない経済指標を手がかりに、経済複雑性が賃上げを困難にさせる低生産性をもたらしてきたのではないかという、構造問題を掘り下げる。(共同通信編集委員 橋本卓典)
鍵を握る中小企業の生産性
「我が国経済は、現在、デフレから完全に脱却し、成長型の経済を実現させる千載一遇の歴史的チャンスを迎えている」
こう宣言して始まる政府の経済財政運営と改革の基本方針「骨太方針」は、日本経済が抱える問題の根幹である、「物価上昇を上回る賃上げ」を最優先課題として掲げた。
17年ぶりとなる日本銀行の利上げも、「持続可能な賃上げの見通し」を根拠に決定された。物価高に賃金上昇が追い付かなければ景気は失速し、金融政策の前提が揺らぎかねない。
鍵を握るのは「労働者の7割が働く中小企業の賃上げ」だ。そして賃上げの原資は、言うまでもなく付加価値額(生産性)である。骨太方針がここに踏み込んだ意味は大きい。
本稿では、日本が20年以上、世界一であり続けている「経済複雑性指標」という耳慣れない経済指標を手がかりに、この日本の“強み”こそが、賃上げを困難にさせる低生産性をもたらしてきたのではないかという、構造問題を掘り下げる。
「日本企業の生産性は低い」ことについて、議論の余地はない。
経済協力開発機構(OECD)のデータに基づけば、2022年の日本の時間当たり労働生産性は52.3ドルでOECD加盟38カ国中30位と、データ取得可能な1970年以降、最も低い順位だった。日本人1人当たり労働生産性は8万5329ドルで31位と、こちらも70年以降、最低である。何とも情けない話である。
だが、低い生産性が続く中、2000年以降、日本が世界一の座を占め続けている経済指標があることはあまり知られていない。
それが「経済複雑性指標」である。