10月3日、ロシアのウラジオストク近郊のザルビノからモスクワに向けて30両編成の専用列車が出発した。積み荷はマツダ製乗用車。極東経由での完成車輸送でシベリア鉄道の利用は、マツダが初めてだ。
シベリア鉄道は、日系メーカーからモスクワやサンクトペテルブルク向けの輸送手段として期待されている。理由は簡単。船便に比べ、輸送期間が30日以上も短縮できるからだ。
特に、サンクトペテルブルクは、“ロシアのデトロイト”と呼ばれ、自動車工場の集積地。自動車部品の輸送手段としても注目され、昨年工場を稼働したトヨタ自動車も「将来、シベリア鉄道を利用して部品を運びたい」(渡辺捷昭社長)と検討中だ。
折しも、ロシア政府が2030年までに60兆円超を投じる鉄道の近代化計画を表明。今年8月には福田康夫前首相とメドベージェフ大統領の首脳会談でも自動車部品を中心としたシベリア鉄道の有効活用が話題に上るなど、周囲の期待は高まる。
とはいえ、いまだ課題は山積。
「振動による破損や盗難などの懸念が解決できていない」(トヨタ関係者)という輸送品質の面に加え、「部品輸送では最低でもコンテナ50本以上、完成車では30両以上はないと運行してくれない」(物流関係者)など、ロシア鉄道側の柔軟性のなさも阻害要因だ。
現在、定期的に自動車部品を輸送しているのは、いすゞ自動車1社にとどまっている。マツダが利用するのも2ヵ所の日本国内工場に港を抱えるという地の利が背景にある。
日系メーカー全体でも利用率は5%にすぎない。シベリア鉄道が自動車関連輸送の主役に躍り出るのは「早くても12年以降」というのが関係者の一致した見方である。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 山本猛嗣 )