職場に行くだけで疲れ果て、週末は寝ているだけで終わってしまう。体力が回復する間もなくまた月曜日……。人生100年時代、こんなストレスフルな日々がずっと続くのかと、不安になっている人も多いのではないだろうか。
そんなときは、先人の知恵に力を借りてみよう。101歳、現役の化粧品販売員として活躍している堀野智子(トモコ)さんは、累計売上高は約1億3000万円で、「最高齢のビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定された。佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)が「堀野氏の技法は、ヒュミント(人間による情報収集活動)にも応用できる」と絶賛したことでも話題である(日刊ゲンダイ・週末オススメ本ミシュラン)。
本連載では、キャリア61年のトモコさんが、年をとるほど働くのが楽しくなる50の知恵を初公開した『101歳、現役の化粧品販売員 トモコさんの一生楽しく働く教え』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋し、日常生活に活かせるエッセンスを紹介する。第1回目のテーマは「気分に波がある人に振り回されないコツ」だ。(文/川代紗生、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

トモコさんの一生楽しく働く教えPhoto: Adobe Stock

他人の感情に振り回される…… 職場に行くだけで疲れる毎日、どうすれば?

 仕事に行って帰ってくるだけで、げっそりと疲れ果ててしまう。そんな日が、あなたにはあるだろうか。

 特別大きなトラブルがあったわけではない。イレギュラーな問題にバタバタと対応しなければならなかったわけでもない。

 任された仕事をこなし、同僚や上司と会話をし、帰宅する。それだけのはずなのに、体力をすべて奪われたように、へとへとになってしまう。

 なぜかといえば、他人の感情を過剰に気にしてしまうからだった。

 これは、私自身も経験した話である。もっと言えば、現在も悩んでいる事柄である。他人の機嫌に振り回されすぎてしまうのだ。

些細なことで妄想が止まらない

 たとえば、職場でピリピリしている人がいると「何か悪いことしちゃったかな」「声をかけた方がいいのだろうか」と気にしてしまい、仕事が手につかなくなる。

 いつも挨拶を返してくれる上司が、今日は返してくれなかった。

 みんなに愛想のいい後輩が、社内チャットで、他の人には即レスしていたのに、私には返信をしなかった。もしかして、昨日引き継ぎをしたときの言い方がきつかっただろうか。傷つけてしまっただろうか。怒らせてしまっただろうか……。

 ほんの些細な出来事なのに、あれこれとイヤな妄想が止まらなくなる。「今日はたまたま体調が悪かったのかな」と、自分に都合よく解釈することなんてできないのだ。

「気配りができる」という強みが、時にはデメリットに

 このように、他人の感情を敏感に察知し、トラブルを先回りして推測するという思考のくせは、気配りができるという強みにもなる一方、疲れ果てて仕事どころではなくなるというデメリットもある。

 とくに、上司や先輩が、感情の波が激しい、情緒不安定なタイプだったら最悪だ。

 よくなったり悪くなったりする相手の機嫌に、いちいち反応していては身が持たない。

 いったいどうすれば、他人に振り回されず、自分のペースで仕事ができるのか。これは、私にとって長年の課題だった。

キャリア61年、長く楽しく働き続けられた理由

 そんなとき、堀野智子さんという人を知った。

 堀野さんは、1923年生まれ。2024年現在、101歳である。彼女がすごいのは、ポーラの化粧品販売員を現役で続けているということだ。

 39歳で化粧品販売をはじめた堀野さんのキャリアは、実に61年。一時は夫の給料の3倍を稼いだこともあるそうだ。「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」として、2023年にはギネス世界記録にも認定されたという。

 今でこそ、オンラインストアや百貨店のコスメカウンターなどで化粧品を買うのは当たり前になったが、堀野さんが働き始めた頃は、訪問販売が主流だった。いわゆる、飛び込み営業というやつだ。

 初対面の人の家を訪れ、化粧品の魅力を語り、買ってもらう。もちろん、うまくいかないときは断られるだろう。ちょっと挨拶をしただけでも「間に合ってるんで」と、ドアをぴしゃりと閉められることだってあるかもしれない。

 さぞや大変な仕事だろうと思ったのだが、本書を読む限り堀野さんには、ストレスを感じていたり、私のように疲弊したりしている様子がないのである。

 むしろ、ポーラの化粧品が大好きな堀野さんにとっては、この仕事が楽しくてたまらないそうだ。97歳のときには入院先の病院で同室だった女性と仲良くなり、新しいお客様を獲得したというから、驚きである。

「機嫌に波がある人」にも振り回されなくなる考え方

 堀野さんは、本書の中で「たぶん、私には相手の負の感情に左右されたり、負の面を厭わしく感じたりする部分がないのだと思います」と語っている。

 そのコツは、「ひどいことをされた相手を思いやる」ことだそうだ。

 ツケで商品を買った顧客にだまされ、お金を払ってもらえなかったときも、「こういうことをする人もいるんだなぁ。よっぽど差し迫った事情でもあったんだろうか」と考え、感情的になることもなかったそうだ。

 心理学には「自他の境界線」を引くという考え方がある。

 たとえば、上司が機嫌が悪いときに、自分が努力することで相手の機嫌を直せるのではないか、とやきもきするのではなく、「自分の責任ではない」と理解することが重要という提案だ。

 イライラしてしまうのは上司自身の問題であり、部下である私の問題ではない。「自他の境界線」を守ることで、他人の感情に巻き込まれず、自分自身を保つことができるというわけである。

いい意味での「他責思考」を使いこなす

 では、どうすれば堀野さんのようにごく自然に、「自他の境界線」をぴっと引くことができるのか。

 そんな疑問を持ちながら本書を読みすすめていったとき、「過剰に相手のことを知ろうとせず、今、自分が相手に差し出せるものを惜しみなく差し出す」というフレーズが目に飛び込んできた。

 シンプルだけれど、ドキッとさせられた言葉だった。

 堀野さんはさらに、こうも綴っている。

長く仕事を続けてこられた理由の1つには、「人との距離が、近すぎず遠すぎずだったから」があるのかなとも思います。
人と人との距離は、よく「ハリネズミ」にたとえられますよね。近すぎるとお互いを傷つけあう、という意味です。
その通りだなぁと思います。親しいからといって、あまりに相手のプライバシーに踏み込みすぎるのは、結局のところお互いにとってよくありません。(P.169)

 いい意味での「他責思考」を、堀野さんはうまく使いこなしている、という印象を受けた。

 私はこれまで、何事も自己責任で考えすぎてしまうところがあった。

 ところが堀野さんは、すべてを「自分のせい」として受け止めすぎず、「他人のせい」にするべきところをしっかり見極めているのである。

他人に振り回されたときに唱えるべき1つの言葉

 他人の感情に振り回されてくたびれ果ててしまったとき、おまじないのように繰り返し唱えたい、堀野さんの言葉がある。

 それは、「どう思われようが人任せ」だ。

 堀野さんは、他人の評価を気にしないでいるための心構えとして、こう綴っている。

他人がどう思うかは、他人の決めることだから、気にしても仕方ないですよね。
私は、まっとうなことをやることだけ考えて、あとは「どう思われようが人任せ」でいたほうがいいと思います。(P.49)

 たとえば、会議で自分の意見を言う際に、他人がどう受け取るかを気にするのではなく、「自分は最善を尽くした」と考え、そのあとは相手に任せてみよう。

 職場で同僚の態度が冷たく感じたときは、「私のせいではないかもしれない」と一歩引いて考え、自分の業務に集中してみよう。

 人生100年時代、無理せず楽しく長く働き続けるために、「自分を守る言葉」を携えてみてはどうだろうか。