2012年、高校から直接メジャーへ行きたいと口にしていた大谷翔平を、日本ハムファイターズが強行指名した。当時の栗山英樹監督は「ドラフト1位が2人いると思っている。エースで4番」と“二刀流”を断行。大谷はルーキーイヤーから規格外の凄さを見せつけた。一方、「エースで4番?プロを舐めるなよ」と身構えていた正捕手・鶴岡慎也だが、春のキャンプで衝撃を受けることとなる。本稿は、石田雄太『野球翔年2 MLB編2018-2024 大谷翔平 ロングインタビュー』(文藝春秋)の一部を抜粋・編集したものです。
「エースで4番」の二刀流?
プロを舐めんなよ
衝撃の始まりは二刀流だった。
高校から直接、メジャーへ行きたいと口にしていた大谷翔平を、ファイターズはドラフト1位で指名した。投打ともに高い評価を与えていた大谷に、前例のない二刀流での育成を提案したのである。あまりに突拍子もない発想に、大谷はこう言っていた。
「最初に二刀流の話を聞いたときは、疑い……というわけじゃないんですけど(笑)、やっぱりこのままバッターになっちゃうんじゃないかなという思いはありました」
しかし、ファイターズは本気だった。
そして、指揮官も本気だった。栗山英樹監督は相当な覚悟をもって臨んでいた。
「ドラフト1位が2人いると思ってるよ。しかも、エースで4番のイメージだね」
ただし、選手たちは懐疑的だった。エースで4番なんてプロを舐めるな、と思うのが普通だろう。ファイターズの正捕手だった鶴岡慎也も、その1人だった。
「初めてその話を聞いたときは、もちろん『できるわけないでしょ』と思いました。みんな、そうだったと思います。前例のない話ですし、そんな甘いものじゃないでしょって……僕の1つ上に松坂(大輔)さんがいたんですけど、松坂さんのバッティングってえげつなかったんです。その松坂さんでもやってないのに、2つなんて、できるわけないとしか思えませんでしたね」