火の手はますます増し、甥っ子はさすがに、

「もう無理だよ。可哀想だけど諦めてくれ」

 と答えました。しかし叔母は言うことを聞きません。

「嫌よ!早く助けてあげて!」

 と泣き叫びます。あまりに嘆き悲しむ叔母の姿を見て、甥っ子は激しい炎の中、犬を助けに行くことに決め、再び家に入りました。

 そして風呂場にいた犬を見つけると、窓から叔母に手渡しました。叔母は泣きながら犬を抱きしめました。

叔母は放火犯を一方的に
責められる立場にあるのか

 その瞬間でした。風呂場の入り口が炎でふさがれ、甥っ子は風呂場から出られなくなってしまったのです。次第に火の手が強まり、甥っ子は熱さと煙で、もがき苦しみ、最後は壮絶な苦しみの痕を残して焼け死にました。風呂の壁や自分の顔まで爪でひっかいた痕が残っていたそうです。

 この教材を読んだ後には、非行少年たちに向けていくつかの質問が準備されています。非行少年たちに考えさせるのです。最後の質問がポイントです。

・火にまかれて死んだその男性の気持ちを考えてください。

・ひどく苦しんで死んだ我が子をみた母親の気持ちを考えてください。