しかし、もしそこで「私は特別な人間だから私を優先しろ!」とキャビンアテンダントに詰め寄るような人物がいたとしたらどうでしょうか。

 その人物は、他者の命を犠牲にしてでも自分は助かりたい、と考えているということです。この人物は普段から“自分自身の目的を達成するために他人を利用する”という考え方や生き方をしているのであろうことも察しがつきます。ここには「自己愛の歪み」が根底にあるのではと感じます。

 もう一度、この放火のケースについて考えてみましょう。飼い犬を諦めるように甥っ子から言われても「嫌よ!早く助けてあげて!」と叫んだ叔母は、愛犬を助けるという目的のために、結果として甥っ子の命を奪ってしまいました。その叔母にも「自己愛の歪み」がなかったと言えるでしょうか。

 母親からすれば、叔母がそういった「歪んだ幸せ」を求めてしまったせいで息子が奪われたのですから、やりきれないでしょう。幸せになりたい気持ちはみんな同じですが、そこに歪みが伴ってしまうと、他者をとんでもない不幸に陥れることがあるのです。