この10月から大手銀行が足並みを揃えて住宅ローンの変動金利を上げることになるなど、住宅ローンを取り巻く状況が変わってきています。繰上返済借り換えを検討する人も増えていると思いますが、どのように行動するのが正解なのでしょうか? 新時代に対応した住宅ローン本『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を上梓し、日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)を運営する塩澤崇氏に聞きました。(取材・構成:小林義崇)

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繰上返済をするとかえって損

――変動金利で住宅ローンを借りている人は、金利が上がったら繰上返済をしたほうがいいのですか?

塩澤崇(以下、塩澤):その必要はありません。むしろ絶対NGです。日銀の利上げによって若干変動金利が上がりましたが、それでも0.3~0.5%程度の低金利が続いています。これだけ低い金利でお金を借りられるなら、「できるだけ長く借りておく」のが正解です。

私の場合、金利で住宅ローンを長く組みつつ、浮いたお金で資産運用を行っていますが、もしその余裕資金で繰上返済をしたら、資産運用で得られたはずのリターンを失うことになってしまいます。

たとえば残り返済期間20年・500万円・金利0.5%の住宅ローンを借りていたとして、その500万円を一括返済した場合と、同じ500万円を年率2%の資産運用に回した場合で比較しましょう。すると、繰上返済で削減できる金利が26万円であるのに対して、資産運用で得られる利益は243万円です。どちらがお得かは一目瞭然ですね。

それに、住宅ローンを借りておけば住宅ローン減税や団体信用生命保険のメリットを受けられますから、繰上返済をするとこうしたメリットを自ら捨てることになります。何より、現金は家計を守る生命線であり、いわば酸素のようなものですから、無理をして繰上返済をする必要はありません。

――それでは、繰上返済をした方がいいのは、どのような状況でしょうか?

繰上返済をするかどうかの判断には、「繰上返済したときのメリット」と「住宅ローンを借り続けたときのメリット」をしっかり比較する必要があります。

繰上返済をした方がいいのは、住宅ローン金利が投資の利回りを超えている場合です。住宅ローン金利が3%や4%になって、長期積立分散投資の利回りが2%の場合には、住宅ローンの繰上返済にお金を使った方がいいと思います。しかし、そのようなことが現実になるのは考えにくいです。今の経済情勢では、繰上返済で削減できる金利負担よりも、投資で得られる利益の方が多く出ると見込めます。

借り換えは今すぐやるべき

――借り換えについてもお聞きしたいです。変動金利から変動金利に借り換えをするなら、借り換え先の金利も上がるので意味がないように思えますが、どうでしょう?

塩澤:金利が上がるときは、今借りている金利も、借り換え先の金利もほぼ同時に上がることになります。ということは、利上げが行われた後も金利差は変わらないので、より低い金利に借り換えられるなら、ぜひしたほうがいいです。

借り換えを検討するときは、「借り換えの諸費用を引いた後、お得になるか?」ということを検証しましょう。とくに、「金利差が大きい」「残元本が多い」「残期間が長い」という3パターンで借り換えメリットが出やすくなります。

金利差については、「9月時点の金利で0.5%以上の金利で住宅ローンを組んでいる人」は、借り換えメリットが出る可能性が高いです。0.5%というとすでに低金利と思われるでしょうが、昨今は銀行の競争激化で変動金利なら0.3~0.4%台の商品もザラにあります。キャンペーンで0.2%台になることもあるくらいです。

――月々の返済額はあまり変わらなくても、より良い団信に入る目的で住宅ローンの借り換えをするのはありでしょうか?

ありです。借り換えのメリットは返済額が減ることだけではありません。たとえ返済総額が大きく減らなくとも、「団信狙い」でメリットがあるなら積極的に借り換えたほうがいいです。最近は住宅ローンに付帯する疾病団信(がん保障や3大疾病保障など)が非常に充実しているので、借り換えでより魅力的な団信に切り替えられるなら嬉しいですよね。

ちなみに、団信を目的とする借り換えは、遅くとも50歳までに検討してください。なぜなら、50歳を超えると借り換え時にがんなどを保障するオプション団信に加入できなくなるからです。銀行によってはオプション団信を無料(上乗せ金利なし)で提供しているところもありますから、若いうちの借り換えがおすすめです。

さらに、年齢が上がっていくと健康問題を抱える確率が高まりますし、スマホ代金の分割払い延滞など個人信用情報に傷がつくようなトラブルに見舞われたり、リストラにあって収入が減ったりすると、借り換えの審査で不利になることが考えられます。こうしたリスクがあるので、借り換えをするなら早めの検討をおすすめします。

固定金利への借り換えは落ち着いて

――変動金利から固定金利への借り換えについては、どうでしょうか?

変動から固定に借り換えをすると、通常は金利がアップするので金銭的なメリットは期待できません。

ただ、固定金利への借り換えを考える人は、変動金利の金利上昇が不安なのだと思います。私は変動金利をおすすめしていますが、どうしても金利上昇が不安という人は、固定金利への借り換えも視野に入ってくるでしょう。

この場合、焦らずに借り換え時期を見極めることが大切です。固定金利は長期金利に連動していますが、この長期金利は米国の政策の影響を受けます。米国が利上げをすると、日本の長期金利が上昇する傾向にあり、結果的に住宅ローンの固定金利が高くなります。実際、日本の固定金利のローンは最近徐々に上がってきています。

でも景気にはサイクルがあり、米国でもずっと利上げが続くことはありません。実際、今年9月に米国は大幅な利下げを行いました。こうなると日本の住宅ローンの固定金利も下がると考えられ、固定金利に借り換えやすくなります。目安として「変動と固定の金利差が0.7%以内に縮んだ場合は、固定金利を検討するのもアリだと思います。