日銀の利上げを受け、住宅ローンの変動金利ユーザーの不安が高まっています。しかし金利の上昇をいたずらに不安に思う必要はないと断言するのが、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』を上梓した塩澤崇氏です。日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」(株式会社MFS)の運営もおこなう塩澤氏に、「これからも変動金利が有利」と考える理由を聞きました。(取材・構成:小林義崇)

家計と住宅ローンPhoto: Adobe Stock

1%の利上げで不動産価格は20%下落

――これから日本の金利がアップすると、不動産価格にどう影響しますか?

塩澤崇(以下、塩澤):計算上ではシンプルに言えば、金利1%の上昇で不動産価格は20%下落します。今年は住宅ローンの基準金利が0.15%引き上げられたため、理論的には不動産価格は3%下がる形です。

このように利上げが不動産価格の下落につながるのは、住宅ローンを借りられる金額が少なくなってしまうからです。たとえば元本3500万円で金利0.5%で借りたとしましょう。すると毎月返済額は9万円です。でも、金利が1.5%に上昇したのなら、同じように毎月返済額を9万円に収めようとすると3000万円ほどしか借りられません。

――これから利上げが予想される今からでも、家を買って大丈夫でしょうか?

金利1%の変動で不動産価格が20%近く下がると言われると知ると、家を買うのを躊躇したくなりますよね。でも、過度な心配は不要だと思います。

たしかに日本はインフレに向かい不景気を抜け出しつつあるため。金利は徐々に上がる可能性があります。でも、問題は「どれくらい金利が上がるか」ということです。日本経済の先行きを考えると、大幅な上昇はないと私は見ています。そのことは、金利をコントロールしている日銀の動向や、民間銀行の間で住宅ローンの低金利競争が起きていることからも言えます。実際、日銀の植田総裁は9月の日銀会合で将来的な利上げを考えているものの、直近の利上げについては「時間的余裕がある」として見送りました。

それに、金利上昇によって日本の不動産が等しく値下がりするかといえば、そんな単純な話ではないと考えています。不動産価格の決まり方は複雑で、家賃相場の変動やインフレなどの影響を受けます。希少性のある物件については依然として値崩れしにくく、とくに都心の一等地であれば外国人投資家の資金も流れてくるため、値上がりが見込めます。そのため、これから日本の不動産はより一層の二極化が進んでいくだろうと私は思っています。

価値が高まるエリアはここ!

――日本では人口減少が続くと予測されているので、やはり不動産価格は下がるのではないでしょうか?

塩澤:その疑問はもっともですが、人口減少によってむしろ人が増える地域も出てくるはずです。過疎化が進む地域が増える一方で、生活基盤が維持されやすい都心部に人が集中しやすくなりますし、共働きが増えて職住近接のニーズも高まっていますから、郊外から都心に人が集中する動きはますます加速するでしょう。そうなると、さまざまなサービスも都心部に集中しますよね。そのサービスに惹かれて、より一層人が集まるという好循環のスパイラルが生まれます。

とくに、港区や渋谷区、新宿区、千代田区など東京都心部は値上がりが見込まれます。このエリアなら一般的な中古マンション(70平方メートル)が今は1億円程度の相場ですが、今後10年で2億円程度に値上がりしても不思議ではありません。

――億単位となるとなかなか手が出せないので、一般家庭でも手が届くエリアを教えてください。

私は都内では池袋(豊島区)、赤羽(北区)と、田端(北区)の3カ所を結んだエリアを「城北デルタ」と呼んでいますが、価格も手ごろで手が届きやすいエリアだと思っています。都心部へのアクセスが非常に良いことをはじめ、荒川が氾濫した時の浸水想定区域にかかっていないことや、物価が安いこと、エリア内の王子(北区)や板橋(板橋区)で再開発が予定されていることも好材料です。

駅近の物件も狙い目です。駅から徒歩1分で行ける範囲の面積を1とした場合、徒歩10分圏内は100あります。徒歩10分圏内にはライバル物件が徒歩1分圏内の100倍あるわけです。ということは、徒歩1分の物件は徒歩10分のものの100倍希少性が高いと言えます。こうした希少性の高いエリアなら、物件が多少古くなっても資産価値の下落をある程度免れることができます。

賃貸よりも持ち家

――賃貸か持ち家、どちらが得かという議論がありますが、塩澤さんは持ち家派ですか?

塩澤:はい。例えるなら、住宅ローンで持ち家を買うのは積み立て投資、賃貸は掛け捨てだと思っています。家は住宅ローンを返済した後は資産になりますが、賃貸は家賃をずっと払い続けても何も残りません。

持ち家と賃貸のコストを比較すると、賃貸の方が安くなることもあります。たとえば「35歳で7000万円の物件を購入する場合」と「賃料20万円の物件を借り続けた場合」を比較すると、前者のコストが1億482万円であるのに対して、後者のコストは8740万円です。ここでは東京・世田谷にある築10年、駅徒歩5分の2LDKの中古マンションを想定しています。

でも、これだけで「賃貸が有利」と考えるのは短絡的です。なぜなら、家を購入すれば、その物件が自分の資産になるからです。さきほどの事例でいえば、最近の世田谷区の取引事例からすると、築45年でも約4000万円で売却することができます。それに、持ち家なら住み続けることもできますから、終のすみかも得られている状態です。

さらに、購入した場合は、住宅ローン減税団体信用生命保険(団信)という強力なメリットがあります。こうした強みは、賃貸にはない持ち家ならではのメリットです。

賃貸は働いている間はいいですが、退職後、60歳や70歳の高齢になった時に部屋を借り続けられるのか、引っ越してもいい家に住めるのかというと疑問です。賃貸物件の大家さんの中には、高齢者になるべく貸したくないと考える人もいます。終の棲家の確保や資産形成の観点から考えると、賃貸よりも持ち家の方がいいと思います。

――家を買うなら早いほうがいいのですか?

そうですね。家を借りている間に払う家賃がかさんでしまいますので。それに、日本経済はいままさに「デフレからインフレへの転換点」という変化のまっただ中にあります。このことを理解すれば、少なくとも「家を買うべき?」という疑問は解決できるはずです。

日本は物価がどんどん下がるデフレの時代を約30年にわたって続けていましたが、2022年ごろから物価上昇が続いています。物価上昇が起きているということは、裏を返せば「お金の価値が下がる」という形です。

家を買う人にとってはインフレの影響は大変なものになります。もしインフレでお金の価値が3分の2になったら、もともとは4000万円のマンションが、6000万円を払わなければ買えなくなるということです。

インフレの時代になると、現金の価値はどんどん下がっていきますから、「できるだけ早く資産を買う」ということが基本戦略になってきます。頻繁に引っ越す予定がある人は別ですが、シンプルに資産形成の観点で合理的な判断をするなら、持ち家一択です