その子には内緒で、片八百長の話が決まった。対戦相手は千種だった。

 千種は取り決め通りに負け、何も知らない仲間は飛び上がって喜んだ。

 ところが試合後、千種はマネージャーの松永国松に呼ばれた。

「何をやった?」

 千種の八百長はバレていたのである。千種はしらばっくれたものの、長年女子プロレスを見てきた国松の目はごまかせない。

「お前はプロレスに向いていない。荷物をまとめて田舎に帰れ!」

 しかし話をするうちに、国松の口調は諭すようなものに変わっていった。

「孤独に強くなければチャンピオンにはなれない。孤独を知った者でなければ星はつかめない。人を蹴落としてでも這い上がろうとする気持ちがなければ成功しない。ここはそういう世界なんだ。お前が仲良しこよしでやりたいのなら、もう俺は何も言わない」

 国松マネージャーの言葉を、千種は深く受け止めた。先輩に叱られても、会社から何を言われても、仲間がいればやっていける。そんな甘えの意識が、自分と同期の仲間たちをダメにしている。そう考えた千種は自ら「仲良しこよし」を離れ、同期の仲間から一定の距離を置いた。