ただし、押さえ込みの攻防が始まるのはAがBの身体に触れた瞬間からだ。それ以前にうつぶせになったりブリッジをすることは決して許されない。Bがフォールを免れれば攻守は入れ替わり、今度はBがAを攻撃する。
先輩と後輩が対戦すれば、後輩に先に攻めさせることが不文律となっている。
押さえ込みでは体重のある選手が圧倒的に有利だが、ジャガー横田のように小柄であっても首と背筋の力が強く、ブリッジがしっかりしているレスラーであれば、押さえ込まれる可能性は低い。
押さえ込みルールの試合は、観客が見て面白いものではまったくない。喜ぶのは松永兄弟(編集部注:全日本女子プロレスを創業した三男・高司を中心とした次男・健司、四男・国松、五男・俊国の四兄弟)だけだ。兄弟の中でも互いにライバル心を抱く四男の国松と末弟の俊国は常に賭けをしていた、と長与千種は証言する。
「孤独を知った者でなければ星はつかめない」
仲間はずれにされた長与千種
千種はこの押さえ込みが苦手だった。必死に練習した結果、ようやく少し勝てるようになった頃、同期の間でこんな話が持ち上がった。仲間の中にずっと試合に負け続けている子がいる。このまま負け続ければ、嫌気がさしてプロレスを辞めてしまうかもしれない。次の試合では、わざと負けてあげよう。