強いライバル心をお互いに抱いている若手ふたりを見つけると、すぐにどちらかを抜擢する。抜擢された選手は遠征に同行して、百戦錬磨の先輩たちと試合を行う。

 長時間のバスによる移動中も、会場に着いてからも、旅館に宿泊する時も、一番下の後輩として朝から晩まで先輩から無数の雑用を言いつけられ、虫の居所が悪ければ殴られる。先輩に殴られても反論は許されない。下を向いて「すみません」と従いつつ、いつかリング上で殴ってやろうと心に誓う。先輩からすれば、飲み込みの悪い後輩を殴るのは当然である。誰もが通ってきた道であり、有望な後輩レスラーは自分の地位を脅かす存在なのだ。

 試合中はもっと緊張する。いくら危険を感じても先輩の技は受けなくてはならない。受ける前にディフェンスすることは決して許されない。相手の技を避ければ罰金を取られる。

 頸椎損傷が一番怖い。必死に受け身を取るものの、頭から真っ逆さまに落とされればどうしようもない。相手が受け身を取れるように落とすことはレスラーにとって最低限のルールだが、ルールを守るかどうかは先輩の胸三寸なのだ。