鼻血、やけど、突き指……。普通に生活をしている中でよくあるケガだが、応急手当ての仕方によっては、悪化させてしまうことがあるという。たとえば、鼻血が出たら上を向いて首をたたくというのは間違った知識だ。では、正しい手当とはどのようなものだろうか。また、どの程度なら病院へ行くべきかというのも迷うところかもしれない。
そんな疑問に答える書籍、『いのちをまもる図鑑』(ダイヤモンド社)が刊行された。鼻血の応急手当てから、危険生物に遭遇したときの対応、突然の災害から身を守る方法まで、さまざまな「生きる知恵」が網羅されている。
今回の記事では、第3章「ケガ・事故からいのちを守る」監修者で医師の西竜一先生に、身近なケガの応急手当てと、病院に行くかどうか判断のポイントについて聞いた。(取材・構成 / 小川晶子)

【鼻血で上を向くのはNG】医師が教える、ケガの「正しい」応急手当てPhoto: Adobe Stock

鼻血が出たらどうするのが正解?

――前回、西先生には緊急性の高い病気・ケガでの応急処置を教えていただきました。今回は、家庭の中でよくあるケガについて教えてください。病院に行くべきかどうか迷うケースもあると思うんです。

西竜一先生(以下、西):止血法についてはすでにお話ししましたが、やはり包丁で手を切ったという話は多いですね。スライサーも多いです。

――めちゃくちゃ切れるやつありますもんね……。圧迫して止血をし、なかなか止まらないようなら病院へ行った方がいいですね。止血で言えば、『いのちをまもる図鑑』を見て驚いたのが、鼻血が出たときに上を向くのはNGということです。昔は「上を向いて首の後ろをトントンたたく」なんて言われていましたが、違うのですか?

西:やらないほうがいいですね。上を向くと血を飲み込んで、嘔吐を誘発するおそれがあります。

――下を向いて喉の奥にたれ込んできた血を吐き出しながら、小鼻を手でつまんで血を止めるのが正解ですね。

西:鼻血の7~8割は鼻の内側の部位からの出血なので、圧迫すれば多くの場合は止まります。心配いりません。高齢者の方で鼻の奥から血が出ている場合は例外ですが……。救急車で来られる方も、多くは病院に着いたときには血が止まっています。

――そうなんですね! 鼻血がたくさん出ると焦ってしまいますが、まずは落ち着いて止血することですね。

熱いお味噌汁がかかった! やけどで病院に行く目安は?

西:それから、やけども多いと思います。熱いお味噌汁をかけちゃったとか。やけどをしたら、『いのちをまもる図鑑』に書いてあるように、すぐに流水をかけて痛みがやわらぐまで5~30分冷やすようにします。

――私は終わったばかりの手持ち花火の火がついていたほうを持ってしまい、やけどをしたことがあるんですが、冷やしてもなかなか痛みがやわらぎませんでした。水ぶくれができて痛くてたまらなくて。流水で冷やしたあとも、保冷剤を巻いておくとか、冷やし続けたほうが痛みを感じない気がするんですが……。

西:冷やし過ぎも良くないんですよ。氷で冷やすと冷えすぎて悪化することもあります。やけどの範囲が広ければ病院へ行った方がいいですが、痛みがあるというのはまだマシです。

――えっ、そうなんですか?

西:やけどには損傷の深さによって大きく分けて3段階あります。1度は皮膚が赤くなった「日焼け」程度のもの。日焼けでもひどい場合は水疱ができますが、水疱ができるほどのやけどは2度。範囲が広いと脱水を起こしやすくなるため点滴が必要になる場合もあります。さらに深いやけどが3度で、感覚がなくなります。皮膚が焦げてしまった状態で、植皮、つまり別の場所の皮膚を移植する手術が必要になることもあるレベルのものです。
病院に行く目安としては、水疱ができており、範囲が広いかどうかといったところです。

――天ぷら油がはねてかかったり、熱い鍋をさわったりして3度までいく場合もありますか?

西:熱いものにどのくらいの時間暴露されているかによるんですよね。普通は瞬間的に離れると思うので、そこまで深いやけどにはなりません。

やけどの応急手当て『いのちをまもる図鑑』本文より。イラスト:五月女ケイ子
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突き指は引っ張らない! 冷やして安静に

――子どもはけっこう突き指をよくやるのですが、突き指の応急処置はどのようなものですか?

西:水や、氷をタオルなどで包んだもので冷やします。炎症なので、大事なのは安静と冷却です。昔は「突き指した指を引っ張るといい」と言われていたようですが、骨折や靱帯損傷が悪化するおそれがあるのでやらないでください。

――私もそれ、聞いたことがあるんですが引っ張っちゃダメなんですね。

西:なぜそういう誤った言い伝えがあるのでしょうかね。しいて言うなら、脱臼している場合は関節がずれているので、引っ張ることによって元に戻ることがありますが……。

――なるほど。脱臼と突き指がごっちゃになってしまったのかもしれませんね……。では、一般的な突き指なら、冷やして安静にしておけば治るということでいいですか?

西:はい。ただ、骨折している場合もありますからね。腫れがひどいようなら病院へ行くのがいいと思います。それだけ炎症がひどいということですから。

――ありがとうございます。こういった知識があれば、あわてずに対処できそうです。

西竜一(にし・りゅういち)
【鼻血で上を向くのはNG】医師が教える、ケガの「正しい」応急手当て

医師。公衆衛生学修士。救急科専門医。南町田病院救急科勤務。帝京大学医学部救急医学講座非常勤講師
帝京大学医学部卒業。救急医として日々あらゆる病気やケガの診察をし、災害時には被災地において医療活動を行う。救急・災害医療の知識を市民へわかりやすく伝える活動も行っている。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。