「もう必死でした。ちょっとでも気を緩めたら、もう涙が止まらなくなってしまいそうで」

 本人の記憶では、なんとか、落涙だけはこらえることができたはずだという。やや記憶が不鮮明なのは、それからすぐ、ホテルに戻ってからの出来事の輪郭が、あまりにもくっきりと残っているから、だった。

「うわ、終わった!」
嫌な予感は的中した

 31名の中の1人か、それとも、10人の中の1人か。残るか、去るか――ワールドカップ最終メンバーの発表だった。

「怖くて怖くて、顔、あげられなかったです。マネージャーの方がメンバーを読み上げていく。最初はプロップから。そこからだんだんと後ろにいって、スクラムハーフの番がきた」

 マネージャーの口から出た最初のスクラムハーフの名は、茂野海人だった。田中自身、自分の名前が最初に呼ばれるとは思っていない。

「エディー(編集部注/2015年W杯日本代表の指揮をとったエディー・ジョーンズ)さんの時は、スクラムハーフ、2人やったんです。ニュージーランドなんかやと、3人体制で行くのが普通なんですけど、ジェイミー(編集部注/2019年W杯日本代表の指揮をとったジェイミー・ジョセフ)はどっちなのか、それがわからなかった。なので、2人目で呼ばれなかったら、最悪、あかんかなと」

 嫌な予感は、的中した。してしまった、と田中は直感した。