次に呼ばれたのは流大で、そこで、マネージャーは言葉を切ったからである。
「うわ、終わった!――そう思いました。茂野、流、どっちも最高の選手。もう一人、内田(啓介)も最高。正直、能力ではもうかなわない。もし、万が一自分が選ばれるとしたら、経験を買ってもらうしかない。3人目としても相当微妙な立場にいるのに、マネージャーさんが2人の名前を言ったところで止まった。完全に、諦めかけました」
サインを欲したファンが田中の心中を知らなかったように、このときの田中は、メンバーを読み上げる大村マネージャーの胸の内を知らなかった。2人目のスクラムハーフの名前を読み上げたあと、なぜ彼は言葉を切ったのか。理由は、あとから知らされた。
「11年の時から、ずっと一緒にやってきたんですよ、そのマネージャーの方とも。なので、付き合いはだいぶ長いし深い。だから、だったそうです」
「選ばれたよーって言ったら
妻が泣いて喜んでくれた」
流の次に田中の名前があったことで、マネージャーは思わず感極まってしまった。これまで日本ラグビーを牽引(けんいん)してきた小柄なスクラムハーフが、ワールドカップという大会にどんな思いを抱き、そして3度そこに立つためにどれほどの地獄を潜(くぐ)り抜けてきたのかを彼は知っている。