この分離壁は、イスラエル人が安全のために必要だと主張し、パレスチナ人が西岸地区からイスラエル内に入れないようにするため、第2民衆蜂起(編集部注/インティファーダ。イスラエルの占領に反対するパレスチナ人の蜂起。1987年と2000年に発生した)という暴力に満ちた時期の後、2002年に建設が始まった。

 壁の長さは約700キロメートルで、ワシントンDCからボストンまでの距離に等しい。そしてトランプが合衆国とメキシコのあいだに建てようとしている壁と高さが同じだった。

 人種差別の壁、併合の壁、アパルトヘイトの壁と、パレスチナ人たちは呼んでいた。

酒、肉、金、女、女、女!若き日のトランプの悪ふざけ『アメリカの悪夢』(デイヴィッド・フィンケル著、古屋美登里訳、亜紀書房)

 ここでの生活はまったく違う、とブレントは風景を見ながら思った。もし合衆国が分裂していくのなら、ここが未来の姿なのだ。

 合衆国は分裂しているのではなかった。分断されているのだ。

 そもそもこれまで、この壁のことを、ドナルド・トランプが自分の壁を自慢げに呼ぶように「立派で大きな」(グレート・グレート)などと言った者はひとりもいなかった。さらに言えば、「グレート」すら言われなかった。暴力と暴力の恐怖が襲いかかったときにそこでなにが起きたかを絶えず思い出させる、ぶかっこうな壁だ。