「神戸連続児童殺傷事件」
気になっていた少年A
本筋から少しずれるようだが、この頃、世間では、男児と女児が残忍な方法で殺害されていた「神戸連続児童殺傷事件」でもちきりだった。
私はなぜか、このニュースが無性に気になっていた。
まだ犯人が逮捕される前で、テレビではコメンテーターが神妙な顔つきで大人の犯人像を語っていたが、私はちがうと感じていた。
本能的に、「犯人は子どもだ」と思っていた。
なぜならば、私も抑えきれないほどの破壊衝動を抱えていたからだ。寝返りをうつたびに、頭のなかで殺人を犯していた私の嗅覚は、結果、正しかった。
しかし、彼と私の決定的にちがう部分は、その衝動が私の場合、内側にも向いていたということである。
犯人の少年Aがしたことは、決して許されることではない。
だが、彼も私も同じ14歳だったのだ。
さて、あの地獄のような1日を経験してからずっと、私は父を心底憎み、毛嫌いするようになっていた。
おまけに水虫だし、汚いし……。
と言っても、憎しみは恐怖の裏返しであったので、父がいるだけで緊張を強いられていた。いわゆる、「普通の会話」をするのにも気を使わざるを得ない。直接的な酷い暴力を受けたのは、あの日が最後だったと記憶している。