冷やすものを手に、母が、「お父さんがふみは我慢強いって言ってたよ」というのを他人事のように聞いていた。

 この世に神も仏もあるものか。

 初めて心の底から殺意が湧いた瞬間であった。

 父の気配が消えたのに気づいていたが、もうどうでもよかった。鏡で自分の顔を見ると、泣き腫らした目が痛々しい。まるで試合後のボクサーのような化け物じみた人間が映っている。

 涙が乾いてカピカピとして不快だった。この時代では、子どもはただ堪え忍ぶことでしか、親の暴力をやり過ごすことはできなかった。今、振り返ると、確実に虐待で通報される案件だっただろうなと思う。

 しばらくすると、ケーキとアイスクリームの袋を抱えて父が帰ってきた。

 飴と鞭を地で行くつもりか……。皮肉な気持ちになりながらも、それらをたらふく腹におさめた。

 我が家では謝罪の言葉の代わりに、甘い物を与えられることがあった。そのせいか、永久歯のほとんどは虫歯になった。歯磨きにも口うるさかった父の教えで、キチンと歯磨きはしていたのに、だ。

 ちなみに、今でも私は甘い物が大好きだ。中毒に近いと思っている。