「治りますか?」
孫は居ずまいを正して熊田に訊いた。
「7、80パーセントは治ります」
熊田は、きっぱりと答えた。
発想が変われば
人の運命さえ変わる
不治の病と言われている慢性肝炎が治る。孫はからだが震えるほどの感動をおぼえた。いま診てもらっている有名大学病院では、決定的な治療法はない。せいぜい現状維持でしかない。
そのままじっと死を待つか。それとも新しい方法に賭けるか。
孫は熊田に言った。
「いくら時間がかかってもかまいません。先生、治してください」
熊田はにっこりと笑った。
「やってみましょう」
孫はこのとき自分が生きていることを実感した。
(たしかに不治の病に苦しんでいる。明日をも知れぬ身であった。だが、まったく発想の違う方法が、人の運命さえ変える可能性がある。己のやろうとしていることも、ぎりぎりのところでは熊田先生のやろうとしているところと同じではないか)
孫の胸に清々しい感動がこみあげてきた。
大学病院に戻った孫は、担当医に転院することを告げた。熊田のことはいっさい口にせず、いかにも律儀で真正直な孫らしく、これまでの礼を述べた。
「転院することにしました。これまでありがとうございました」
1984年3月13日、孫は虎の門病院川崎分院に転院した。妻の優美はつきっきりで看病した。優美はどうしても沈みがちになる夫を励ました。