根気強くひとつのことを考えられない、寝ても疲れが取れない、歩くのが遅くなった……。「老い」は気付かぬうちに少しずつあなたを蝕んでいく。老いを少しでも遅くしたいと願わない人などいないだろう。そこで、食事術や生活習慣といった「不老術」をアメリカの名医がまとめた本が誕生、NYタイムズベストセラーに選ばれ、エリック・シュミットといった数多くの著名人から絶賛を受けている。世界9カ国以上で刊行の話題作『医者が教える最強の不老術』より、内容の一部を編集して特別に公開する。
「生物時計」を遅らせることに成功した3つの実験
ドクター・スティーブ・ホーヴァスと共同研究者たちは、長寿に役立つと考えられる3種類の化合物、すなわちヒト成長ホルモン、DHEA(加齢とともに減少する副腎ホルモン)、メトホルミン(長寿効果が期待できる糖尿病治療薬)を成人のグループに投与する研究を行った。私自身は可能な限り自然が作り出した化合物を使うことを好むが、ある種の薬は異常な老化の治療に効果を発揮する可能性がある。
この研究で発見されたことは、研究者たちを驚かせた。彼らは、生物時計をわずかに遅らせることはできるだろうと期待していたのだが、1年間の治療により参加者の生物学的年齢は約2歳半も若返っていたのである。この効果は、治療を停止したあとも6ヵ月にわたって続いていた(*1)。
典型的にビタミンDが欠乏している被験者のグループに4000IUのビタミンD3を投与したもう1つの研究では、ほんの16週間後に生物学的年齢が1.85年も若返ったことが示された(*2)。
さらに、ポーランドの女性を対象とした研究では、地中海式食事法が1年間で生物学的年齢を1.47歳引き下げたことが示された(*3)。被験者たちの暦年齢が1歳上がるなか、生物学的年齢は逆行したのである。
ドクター・カーラ・フィッツジェラルドと共同研究者は、43人の健康な成人男性(50~72歳)を対象にして行った、機能性医学に基づく包括的な生活習慣の介入を行う研究で、さらに驚くべき結果を手にした。
被験者たちは8週間の治療プログラムを受けた。その内容には、ファイトケミカルが豊富で、抗炎症作用があり、メチル化を助ける、自然食品に基づく食事法(地中海式食事法をアップグレードしたもの)、運動、睡眠の最適化、ストレス軽減(呼吸法)、プロバイオティクス、そしてメチル化を改善することが知られているファイトケミカルを含む果物と野菜の植物性栄養素パウダーの摂取が含まれていた。
その結果、治療グループの男性たちは、対照グループと比較して、わずか8週間で生物時計(DNAメチル化で測定)を3.23年も逆転させたのである(*4)。これは小規模研究ではあるが、結果は統計学的に有意なもので、率直に言って、非常に胸が躍る。
このような変化と他の既知の介入を何年にもわたって組み合わせたらどうなるか考えてみてほしい。私たちはどこまで若返ることができるだろう? DNAメチル化生物時計を使った研究は、まだ始まったばかりだとはいえ、長寿と健康に対するさまざまな介入の効果が測定できる正確なツールを手にする扉を開いてくれた。人は、生物学的に若ければ若いほど健康になれ、若々しく感じられれば感じられるほど、長生きできる。
*1 Fahy GM, Brooke RT, Watson JP, et al. “Reversal of Epigenetic Aging and Immunosenescent Trends in Humans.” Aging Cell. 2019 Dec;18(6).
*2 Chen L, Dong Y, Bhagatwala J, Raed A, Huang Y, Zhu H. “Effects of Vitamin D3 Supplementation on Epigenetic Aging in Overweight and Obese African Americans with Suboptimal Vitamin D Status: A Randomized Clinical Trial.” J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2019 Jan ;74(1):91-98.
*3 Berendsen AAM, van de Rest O, Feskens EJM, et al. “Changes in Dietary Intake and Adherence to the NU-AGE Diet Following a One-Year Dietary Intervention among European Older Adults-Results of the NU-AGE Randomized Trial.” Nutrients. 2018 Dec 4;10(12):1905.
*4 Fitzgerald KN, Hodges R, Hanes D, et al. “Potential Reversal of Epigenetic Age Using a Diet and Lifestyle Intervention: A Pilot Randomized Clinical Trial.” Aging (Albany NY). 2021 Apr 12;13(7):9419-32.
(本原稿は、『医者が教える最強の不老術』から一部を抜粋し編集しています)