根気強くひとつのことを考えられない、寝ても疲れが取れない、歩くのが遅くなった……。「老い」は気付かぬうちに少しずつあなたを蝕んでいく。老いを少しでも遅くしたいと願わない人などいないだろう。そこで、食事術や生活習慣といった「不老術」をアメリカの名医がまとめた本が誕生、NYタイムズベストセラーに選ばれ、エリック・シュミットといった数多くの著名人から絶賛を受けている。世界9カ国以上で刊行の話題作『医者が教える最強の不老術』より、内容の一部を編集して特別に公開する。
最も優れた寿命の予測因子は
最大酸素摂取量
私たちの祖先は、ジムに通ったり、トレーナーを雇ったり、ランニングシューズを買ったりすることなく、デザインされた通りに身体を使って、たくさん動いていた。推奨される量の日常的な身体活動をしているアメリカ人は、ほんの23%しかいない(*1)。さらにほとんど身体を動かさない人は、私たちの半数にまで及ぶ。これは致命的な状況だ。
身体を動かしたり、心臓のポンプを押し上げたり、筋肉を鍛えたりしなければ、身体がなまって締まりがなくなるだけでなく、炎症、ホルモンの変化、サルコペニア[筋肉の喪失]による病気の温床になる。そして、インスリン抵抗性が高まり、血圧が上昇し、ストレスホルモンが増加する一方で、性ホルモンは減り、骨は衰え、心臓病、がん、糖尿病、脂肪肝、認知症などのリスクがすべて高まる。
運動をしないと、内臓脂肪が増える。これは、ほぼ文字どおりお腹に火がつくようなもので、サイトカイン[免疫系のメッセンジャー]が噴出し、それがホルモンと代謝の破壊の連鎖を加速させて、体重増加、さらなる内臓脂肪、炎症性老化を促進する。
実のところ科学は、太るのは食べ過ぎと運動不足(燃やすカロリーより食べるカロリーのほうが多い)のせいだという従来の考えを打ち砕き、間違ったものを食べ過ぎて内臓脂肪がゆっくりと蓄積することが、私たちにさらに食べさせ、運動不足にさせることを証明している(*2)。内臓脂肪は「空腹脂肪」だ。代謝と脂肪燃焼の速度を低下させ、私たちを空腹にして、カウチポテト[寝椅子に寝転がってポテトチップを食べながら一日中過ごす人]に変えてしまう。
運動不足は、ミトコンドリア機能や栄養感知経路のダメージ、炎症性老化、異常タンパク質、DNA損傷、テロメア短縮、ゾンビ細胞、エピジェネティックな変化、幹細胞の消耗や枯渇など、あらゆる老化の典型的特徴を加速させる。逆に言えば、運動は、ほとんどの老化の典型的特徴を簡単に逆転させることができる手段の1つなのだ(*3)。
もし運動を錠剤にすることができれば、それは最強の健康長寿戦略になるかもしれない。毎日20分間ウォーキングをするだけで、心臓病、糖尿病、がん、認知症のリスクを40%減らすことができる(*4)。
実際、最も優れた寿命の予測因子の1つは、最大酸素摂取量(VO2max)と呼ばれるもので、これにより、代謝効率とフィットネスレベルを間接的に測定することができる(*5)。フィットネスレベルが上がれば上がるほど、あなたは健康になり、長生きすることができる。今こそ身体を動かすときだ! ただし、運動は健康と長寿にとってこれほど大事なものであるとはいえ、それで悪い食生活を埋め合わせることはできない(*6)。
*1 Blackwell DL, Clarke TC. “State Variation in Meeting the 2008 Federal Guidelines for Both Aerobic and Muscle-Strengthening Activities through Leisure-Time Physical Activity among Adults Aged 18-64: United States, 2010-2015.” Natl Health Stat Report. 2018 Jun;112:1-22.
*2 Ludwig DS, Ebbeling CB. “The Carbohydrate-Insulin Model of Obesity: Beyond ‘Calories In, Calories Out.’” JAMA Intern Med. 2018 Aug 1;178(8):1098-1103.
*3 Garatachea N, Pareja-Galeano H, Sanchis-Gomar F, et al. “Exercise Attenuates the Major Hallmarks of Aging.” Rejuvenation Res. 2015 Feb;18(1):57-89.
*4 Santos-Lozano A, et al. “Physical Activity and Alzheimer Disease: A Protective Association.” Mayo Clin Proc. 2016 Aug;91:999-1020.
*5 Hollar DW. “Biomarkers of Chondriome Topology and Function: Implications for the Extension of Healthy Aging.” Biogerontology. 2017 Apr;18(2):201-15.
*6 Ding D, Van Buskirk J, Nguyen B, et al. “Physical Activity, Diet Quality and All-Cause Cardiovascular Disease and Cancer Mortality: A Prospective Study of 346 627 UK Biobank Participants.” Br J Sports Med. 2022 Jul 10:bjsports-2021-105195.
(本原稿は、『医者が教える最強の不老術』から一部を抜粋し編集しています)