米航空宇宙軍需産業の名門ボーイングが、小型機「737MAX」、大型機「787」など複数の主力旅客機で相次いだ安全性の問題をはじめ、生産ラインの品質や労働問題のため経営危機に見舞われている。ボーイングは米最大手の輸出企業の一つに数えられ、米経済に推計で年間790億ドル(約12兆円)もの貢献をしている。直接的・間接的な雇用も全米50州の1万社で160万人に及び、同社の事業継続は国家レベルで重大な意味を持つ。日本もひとごとではない。このうち767では15%、777と発展型の777Xについては21%、787は35%の比率で三菱重工業や川崎重工業など日本企業が部品を生産している。最悪のケースではこれら有力日本企業が大きな収益源を失うことが予想される。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)
350億ドルの緊急資金調達
失敗すれば倒産も……
ボーイングで9月中旬から発生したストライキには3万3000人が参加し、1カ月当たり10億ドル(約1500億円)規模の現金が流出しているとされる。労働組合側が要求する「向こう4年間で40%の賃上げ」に対し、35%で新たな労働協約を締結することで暫定的に合意した。新たに10億ドルの人件費負担が発生する見込みであった。
ところがボーイングが10月11日に、コスト削減のため全従業員の1割に相当する1万7000人を削減すると発表する暫定合意の雲行きは怪しくなった。従前から雇用確保と引き換えに賃上げを我慢し、年金の権利も放棄してきた労組側の経営陣に対する不信はさらに深まった。そのため、10月23日に実施された組合員の投票では年金問題の未解決などで、64%の反対票を受けてこの協約は否決された。
これに先立ち、ボーイングは危機打開策として社債や新株発行による最大250億ドル(約3.8兆円)の資金調達策を策定。加えて、複数の大手銀行との間で総額100億ドル(約1.5兆円)に上る融資枠の設定で合意していたが、新労働協約の否決とスト続行のため先行きは不透明となった。
社債や新株発行がうまくいかない場合、同社の社債は投資不適格のジャンク債に格下げされ、調達金利は跳ね上がり、経営危機はさらに深刻化することが予想される。一方、膨れ上がる受注残は9月末時点で約5400機にも達している。大手格付け会社のS&Pグローバル・レーティングは、ボーイング社債の格付けを「投資不適格」の一歩手前と位置付けていたが、さらなる格下げが視野に入ってきた。
中東エミレーツ航空のティム・クラーク社長は10月14日付の航空専門ニュースサイトで、「(ボーイングは)資金調達しなければ格下げと米連邦破産法第11条(チャプター11)の兆しが見えてくる」と警鐘を鳴らしている。
さらに悪いことに、10月23日に発表された7~9月期決算では最終的な損益が61億7400万ドル(約9400億円)の9四半期連続赤字となった。開発中の次世代大型機「777X」の納入延期やストライキによる生産・納入の遅れによる損失が主な要因だ。
現段階でボーイングは労使紛争の解決が優先課題となるが、労使合意が得られたとしても山積する中長期の経営立て直しは容易ではなく、危機が去ることは見込めない。そうした状況の下、ここにきて現地では資金調達とは別の打開策が語られ始めている。次ページでその中身と日本企業への影響を探った。