人手不足の深刻化、資本効率化要請の強まりなどの環境変化で低生産性企業は退出を迫られる。高賃上げやバブル期に迫る2桁増の設備投資計画はその流れが始まったことを感じさせる。コロナ禍などで保護された時代から企業の優勝劣敗・二極化が鮮明になるだろう。(みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席エコノミスト 酒井才介)
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33年ぶり高賃上げやバブル期以来の投資拡大
ヒト・モノへの投資ができないと退出迫られる
日本企業の行動が変わりつつあることを印象付ける出来事が目に付くようになった。
例えば、2024年の春闘は、企業側の満額回答が相次ぎ、連合の最終集計では賃上げ率が5.10%と1991年以来33年ぶりの5%台となった。賃金以外の面でも、日銀短観6月調査での24年度の設備投資計画(全規模合計・全産業、ソフトウエア・研究開発を含み土地投資額を除くベース)は前年比+10.6%と、昨年同期計画(12.6%)は下回るものの二桁増だ。
「企業行動に関するアンケート調査」(2023年度、内閣府)でも、今後3年間の設備投資見通しは製造業で年度平均+7.1%、非製造業で同+6.5%とバブル期の90年度に迫る高い伸びになるなど、企業の設備投資に対する積極姿勢が色濃く表れている。
急速な人手不足の進展や資本効率を高めることを求める株式市場からの圧力など、不可逆的な「五つの外的環境の変化」が企業に行動変化を迫っており、ヒト・モノへの投資で競争力や収益力を高めることが生き残りのカギになっているからだ。
コロナ禍もあって超金融緩和や「ゼロゼロ融資」などで保護された時代は終わり、投資ができないままの低生産性企業は退出を迫られる。倒産が増えるリスクをチャンスに変え、経済全体の生産性向上につなげるには、企業経営者が「企業価値向上につながる再編」に踏み切ることが重要だ。