注目テーマをメッタ斬り! “人気株”の勝者・敗者#3Photo:PIXTA

2065年にかけて、毎年約70万人ペースで減少すると予測されている日本の生産年齢人口。企業の人手不足は歯止めがかからない状況だ。人手不足の恩恵を受けるといわれる人材業界だが、その内実は業態によって異なり、中には衰退危機にさらされるケースも。特集『注目テーマをメッタ斬り!“人気株”の勝者・敗者』(全18回)の#3では、人材セクターの複数のアナリストへの取材を基に作成した、主要9社の短期・中期・長期の見通しを公開する。(ダイヤモンド編集部 永吉泰貴)

人手不足で人材業界主要9社に明暗
紙媒体終焉以来の大転換も

「2030年に644万人の人手不足が生じると推計している。この人手不足を埋める役割として、われわれに追い風が吹いている」

 人材業界大手パーソルホールディングス(HD)の和田孝雄代表取締役社長 CEOは、国内の人手不足の見通しについてそう語る(和田社長へのインタビュー詳細は本特集#14『「AIで人材派遣の仕事は増えていく」売上高1兆円超の人材大手パーソルHD社長が力説』を参照)。

 人手不足の指標の一つ、有効求人倍率は23年2月で1.34倍だ。コロナ禍には一時1.04倍まで下がったが、このところ上昇局面が続いている。長期的にも生産年齢人口の低下による人手不足は避けられない状況で、まさに息の長いテーマである。

 そして、国内で深刻化する人手不足をわが世の春と謳歌するのが、冒頭のパーソルHDをはじめとする人材業界だ。人が足りない採用企業に対し、求職者との橋渡し役を担えるからだ。

 エンジニア派遣を例に挙げよう。dodaの転職求人倍率レポート(2023年3月)によれば、「エンジニア(IT・通信)」の転職求人倍率は約10.3倍にも達している。引く手あまたのIT人材を採用企業に派遣し、派遣料金を得るのが人材派遣会社である。

 とはいえ、全ての人材サービスが人手不足の恩恵にあずかれるわけではない。人材サービス分野では勝ち組と負け組が明確になっていくだろう。

 そもそも、人材派遣の一つを取ってみても前述のエンジニア派遣のみならず事務系派遣や製造系派遣があり、人材サービスの分野は細分化している。「人手不足だから人材サービスは伸びるだろう」と十把ひとからげに甘くみて投資するのは禁物だ。

 そればかりか、人手不足は一部の人材サービスにとってむしろ逆風になるというのだ。立花証券企業調査部の入沢健アナリストは「人材業界では2000年ごろに、紙媒体からネット媒体への大転換が起こった。人手不足が深刻化すると次は別の人材サービスが限界を迎える可能性もある」と指摘する。確かに、紙からネットへの転換は勝ち組がごそっと入れ替わるほどのインパクトがあったが、同レベルの地殻変動が起ころうとしているわけだ。

 次ページでは総合人材サービス、人材派遣、求人メディア、人材紹介と人材サービスの4分野主要9銘柄について、複数のアナリストに徹底取材。すると人手不足が今後も進むにもかかわらず、残酷なまでの明暗が浮かび上がってきた。注目すべきなのは、直近の株価が低迷していても、中期や長期では構造的に確かな勝ち組になるとみられている企業があるということ。

 さらに、人材ビジネスの“破壊者”であるリクルートホールディングス(HD)とビジョナルは業界をどう激変させるのか。短期、中期、長期の見通しを業態別に解説する。

図表:SAMPLE 人材サービス業界の4分野主要9社の株価成績表