マーベルが破産を申請した頃、スタン・リーはすでに日常的な編集業務からは離れていたが、それでもマーベルから発行されるすべてのコミックスの表紙にはリーの名前があった。

 長年カリフォルニア暮らしを夢見てきたリーは、テレビ・ドラマ『超人ハルク』が人気を博すにいたってついにロサンゼルスに居を構えた(テレビの実写版ハルクではビル・ビクスビーが主人公デヴィッド・バナーを演じているが、テレビ局の重役たちが「ブルースという名前だと同性愛者みたいだから」というありえない理由で、デヴィッドに変えられた。バナーの筋肉質の分身はルー・フェリグノが演じ、番組は1977年から1982年までCBS局で放映された)。

「1960年代後半にマーベルがメディアの関心を集めて、勢いがつき始めた頃のことだ」と『Marvel Comics: The Untold Story(マーベル・コミックス:語られなかった物語)』(2012)の著者ショーン・ハウがインタビューに応えて語っている。

「ジャック・カービーと(リーが)一緒にカリフォルニアに拠点を移して映画業界に足を踏み入れようという話が、少なくとも本人同士の間であったらしい。コミックスにしがみついていても稼ぎにならないし、誰も理解してくれず、やりがいもないから」