アイアンマンはいいけど、スパイダーマンはダメ?兵士の「強化改造技術」はどこまで許されるのかPhoto:Gareth Cattermole/gettyimages

薬物投与、外科的手術、装置の体内埋め込みなどで、兵士らの能力を強化改造する技術の開発が米・中・仏で進んでいるという。「夜間の視力強化」「脳が兵器と直接通信」というSFチックな能力は現実となるのか。本稿は、橳島次郎『科学技術の軍事利用』(平凡社)の一部を抜粋・編集したものです。

米・中が競う「兵士の強化改造」
日本でもサイボーグ化の研究進む

 2020年12月4日、フランス軍事省防衛倫理委員会は、兵士の心身を強化改造する技術の研究開発を認める意見書を公表した。同じ頃、米国のラトクリフ国家情報長官が、安全保障上の中国の脅威について寄稿した論考で、中国では、人民解放軍で、兵士を実験対象にして生物学的能力を増強する技術の開発を行っていると述べた(CNNによれば、中国外務省は、それは嘘だと否定している)。

 兵士の強化改造技術とは、薬物の投与や外科手術・各種装置の埋め込みなどにより、身体的・心理的・認知的能力を強化する措置を人体に施すというものだ。英語では「エンハンスメント enhancement」という。具体的には、夜間視力の強化、苦痛やストレスへの耐性の強化、兵器システムやほかの兵士と直接情報や指示をやり取りできる装置を脳内に埋め込む、といったものが想定されている。

 米国や中国などでは、そうした兵士の強化改造技術の研究開発が進められている。そのなかでフランスも、公然と科学・技術による兵士の心身の強化に乗り出す方針を打ち出したものと注目された。

 兵士の強化改造の研究は、軍事科学大国米国で、盛んに行われている。脳科学、バイオ技術、ナノ技術、ロボット工学などの最先端技術を動員して国防総省国防高等研究計画局(DARPA)が行ってきた兵士の強化技術の研究には、たとえば次のようなものがある。

・長時間眠らないで活動できるようにする薬物や頭部磁気刺激の開発
・体温調節などの体内代謝を制御し、食事をとらずに活動できるようにする技術
・人間とコンピューターを繋ぎ情報処理と兵器や装備の運用の能力を高める技術
・脳内物質を投与し学習能力を高める技術
・脳への外部メモリーの接続、シリコンチップの埋込み、電気・磁気刺激などにより、記憶・学習能力を高める技術
・認知行動療法と薬物の投与によってストレスへの耐性を高める技術

 このほかにもDARPAでは、パーキンソン病やうつ病などの神経・精神疾患の治療に使われている脳深部電気刺激(DBS)の次世代技術を開発する研究助成プログラムを進めている。戦闘能力を強化向上させるための脳神経の操作にも応用できる研究だと考えられる(フランク『闇の脳科学』)。