2008年2月末、アブダビ首長国の政府系企業関係者が訪日、日本企業と熱心に接触していた。その企業はアブダビ・トレードハウス。アブダビ政府系企業(60%)と日本の総合商社、丸紅(40%)が出資する総合商社だ。
総合商社はアブダビ経済計画庁長官でもある、ハーミド王子が日本の総合商社の機能に注目、丸紅に協力を要請し2007年5月に合弁会社として設立された。今回の訪日の目的は工業団地ポリマーパークへの日本企業誘致だ。
アブダビやドバイ首長国が属するアラブ首長国連邦は、中東の中心に位置し、ヨーロッパとアジアをつなぐ好立地にある。ドバイはその特性を生かし、金融や物流の中心地となって発展を続けている。
一方のアブダビは、じつは製造業の拠点を目指している。原油枯渇後に備えて、莫大な資金を運用している政府系ファンド、アブダビ投資庁が注目を集めているが、もう一つの柱が製造業育成なのだ。
その実現のため、1971年に設立されたGeneral Holding Corporation(アブダビ政府の100%出資)は、製鉄業や食品など多くの製造業を有している。しかし、現状では、どの企業も世界の企業に伍して戦えるほどの実力がない。
そこで、アブダビ・トレードハウスがそれらの流通のサポートや、輸出信用制度の創設、外国製造業の誘致などを担うのだ。日本の製造業が急成長した時期に、日本の総合商社が果たした役割に近い。
丸紅側にも大きなメリットがある。豊富な資源が眠り、消費地としても期待されるアフリカに近く、将来の基点になりうるのだ。
アジア諸国に比べて人件費は高くつく。しかし、ポリマーパークへ入居する企業には、安価なエネルギーや、化学品の原料となる原油や石油の特別価格での提供などが想定されているという。現在、複数の日本企業が興味を示しアブダビ側と交渉をしている。実現すれば中東地域では初の本格的な日本の製造業の進出となる。
アブダビの原油を原料に、日本企業がアブダビで作った化学製品がアフリカに出荷される。そんな日がくるのも近いかもしれない。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 清水量介)