これまで、リーダーといえば「責任をとること」が役割だと思われてきた。しかし、『リーダーの言語化 「あいまいな思考」を「伝わる言葉」にする方法』の著者である木暮太一氏は、リーダーの本来の役割は、どこに向かって進むべきかを「言葉で明確に伝えること」だと話す。このたび木暮氏に、リーダーが身につけるべき言語化スキルについて、シーン別に対処法や解決策を教えてもらった。(取材・構成/山本奈緒子)

優秀なリーダーはどのように長時間労働をなくしているのか?Photo: Adobe Stock

長時間労働になるのはムダなことをたくさんやっているから

――日本のビジネスシーンにおいて、企業が改善しようと取り組んでいる問題の一つが「長時間労働」です。これも言語化によって防げるのでしょうか?

木暮太一(以下、木暮):昨今、長時間労働対策として、「残業を減らす」とか「業務を効率化する」とか……、こう言っては何ですが、根本の原因があいまいなまま世の中で問題視されていると感じます。「残業があるからいけないんだ」、「男性が育休を取ればいいんだ」というような話になっていますが、これって本質が完全に抜け落ちている気がするんですよ。

――「なぜ残業をしなければならないのか?」という議論が抜け落ちているということですね。

木暮:そもそも長時間労働になっているのは、ムダなことをたくさんやっているから仕事が終わらないわけです。

たとえば工場で働いているとして、今まで毎日100個の品物を作っていたところ500個のオーダーが来たから働く時間が5倍になりました、となったとします。そして売り上げも5倍になって利益も5倍になった、というなら「良かったですね」という話になる。

……なんですけど、現在は多くの場合、長時間労働をしても売り上げは増えていないんですよ。もちろん利益も増えていない

――そもそも残業をしてまでやっている仕事に意味がないかもしれない、ということですか!?

木暮:残念ながら、そうなんです。売り上げも利益も増えないのに何でやっているの? という話なんです。そしてその「やらなくていい仕事」を効率化させようとしているように見えて仕方がありません。

もしあなたが個人事業主だったら、当然「この仕事、やらなくていいよね」という発想になるはず。だけど組織の仕事のやり方に染まってしまうと、なかなかそこに気付けなくなるんですよね。

日本の仕事には“念のため”が多すぎる

木暮:ドライに言いますと、ビジネスの目的って売り上げとか利益を増やすことで、増えていないのならその仕事はやめればいい、ただそれだけの話なんですよね。

長時間労働がなくならないというのは、こういった本当はムダな仕事をたくさんやっているからです。ただ、本人たちはムダなつもりはまったくありません。「これもやっておかなければならない」と思っているんです。

ではなぜ「これもやっておかなければならない」と思うかというと、どこに進んでいるか分かっていないからなんです。

――たしかに、ゴールが見えてないと目の前のことの必要不必要が分からなくなりますよね。

木暮:以前(記事:「ダメなリーダーは「ムダな会議」をする。優秀なリーダーの「意味がある会議」とは?」)に話しましたけど、ゴールはハワイにたどり着くことなのに、一生懸命、自転車の整備をしている感じなんですよ。

「いや、ハワイに行くのに自転車はほとんどないから」ということに気付いてないんですよね。ゴールが見えていないから行き方が分からなくて、念のためこれもやっておかなければ、あれもやっておこう、みたいになってしまう。

いろんな“念のため”が増えて、結果、長時間労働になってしまうんだと思います。

――たしかに、「念のため」とか「一応作っておこう」みたいなことが多い気がします。

木暮:それこそメールを打つのも会議をするのも営業資料を作るのも、それが本当に必要なのか? ということは、思考停止してしまっていて、ほとんど考えられてないんですよね。

――それらは、リーダーがゴールを言語化して明確に伝えれば一発で解決してしまう、と。

木暮:そうです。リーダーは、「とにかく今回はここにたどり着きましょう、そのためにあなたたちは自転車を置いてまずは電車に乗りなさい」、あるいは「チケット取りなさい」といったようにやるべきことを指示してあげるべき

そうすればみんな、「あ、自転車のタイヤに空気入れる必要はなかったんだ」となり、ムダな業務をカットできるはずなんですよね。

――悲しいですけど、まったくいらないことをやってるところは多いですよね、日本の働く環境って。

木暮:しかも自転車の整備を一回始めてしまうと、「そのサドルの磨き方は効率が悪いのでは?」みたいなことに話が逸れてに広がっていく(笑)。飛行機のチケットには到底たどり着かないというわけです。